新幹線の自由席特急料金は、一駅乗った場合の最低料金でも870円かかる。なのに、乗車券も含めてわずか330円で、新幹線に乗れる路線が福岡県にある。
山陽新幹線の終点の博多駅を起点とする「博多南線」で、ワンコインで新幹線の旅が楽しめるため、鉄道ファンや子ども連れに人気が高い路線である。
博多南線の起点、JR博多駅
みどりの窓口の券売機には博多南線の切符購入用ボタンがある
JRの初乗り運賃より安い特急料金
博多南線は正確には新幹線の路線ではなく、在来線の扱い。運行する線路は主に、JR西日本博多総合車両所までの引き上げ線なのだ。
もとは博多駅止まりの列車を、車両所へ回送する専用線だったが、交通の便がよくなかった車両所周辺の住民の要望により、1990年(平成2年)より旅客列車の運行を開始。現在では地域の足として、すっかり定着している路線なのである。
乗車する際の手続きは新幹線と同じで、切符は新幹線特急券の券売機で購入する。特急券も必要で、JRの初乗り運賃より安い130円だ。使われる車両は、戦闘機のようなフォルムの500系や、「ひかりレールスター」に使われるハイグレード車両の 700系など。
博多南線用の発車時刻表。新幹線とは別の専用のもの
次の駅の駅名表示に博多南駅も記されている
博多駅から先は新幹線としては回送扱いなので、列車がホームに入ると入口そばの電光表示から「こだま」の愛称名が消え、「博多南」の駅名のみに切り替わる。
普段使いするお客が中心の新幹線
博多駅を出発して駅付近の繁華街を後に、しばらくは九州新幹線の線路を走る。所要わずか10分ほどながら、リクライニングシートを倒してくつろいで過ごせる。市街地を走行するので、時速は120kmとやや遅めだ。
博多南線の車内。新幹線と変わらない風景
普通車のほか料金を払えばグリーン車も利用できる
客層は主に通勤客や学生、買い物客で、ビジネス客や旅行客が中心の新幹線と違って、車内には生活感が漂っている。日中は1時間おきの運行のローカル線だが、朝夕のラッシュ時は立つ客が出るほど混雑しているという。
博多駅を出発してしばらくは市街を走行
やや走ると沿線に木々の緑が増えてくる
しばらくして、佐賀県との県境の山々が遠くに見えてくると、九州新幹線の線路から分岐する、引き上げ線へと入っていく。高架を下ると博多総合車両所で、留置されている車両群が車窓に迫り、なかなかの迫力だ。
九州新幹線の線路から引き上げ線が分岐するポイント
留置車両に並ぶようにして博多南駅に到着
ホームや駅舎は新幹線の駅にしては簡素な造りだが、駅名標は新幹線用のスタイルで堂々と掲げられている。
博多南駅。改札口と駅舎は博多寄りにある
博多南駅のホームの長さは6両分と短い
車両所の駅前から遺跡と古墳を探訪
博多総合車両所は、山陽新幹線が博多駅まで開通する前年の、1974年(昭和49年)に開設。各種検修が行われる車両工場も併設された総合車両基地で、山陽新幹線の全車両がここに配置されている。
博多南駅のホームからは敷地内を広く見渡せ、主力のN700系をはじめとする様々な形式の新幹線を、じっくり観察してみるのも楽しい。
ホームの北の端から見えるN700系の編成群
ひかりレールスター用の700系は黄色の帯が目印
乗ってきた列車は車内清掃が行われ、博多駅を経て新大阪行きの「こだま」号になる。折り返しまで時間があるので、博多南駅付近を散策してみよう。
博多南駅の駅前には花壇やオブジェが並ぶ公園
運行本数が少ないので次の列車の時刻を大きく表示
九州新幹線の高架に沿って南へ進むと、車両所に面した道路沿いに「新幹線博多基地之碑」が建つ。山陽新幹線開業を記念して、1975年(昭和50年)3月に建立。碑には田畑を線路用地として提供して、新幹線の建設に協力してくれた、地域の人達の名が刻まれている。
博多南駅舎のそばを横切る九州新幹線の高架橋
車両所と高架橋の前に立つ新幹線博多基地之碑
また博多南駅がある那珂川市には那珂川が作り出す平野が広がり、古くから稲作や畑作が行われ人が住み着いていた歴史がある。遺跡も多く発見され、弥生時代中期の甕棺墓(かめかんぼ)や腕輪が出土した宗石遺跡群、全長54mあった貝徳寺古墳などが徒歩圏に。
イチョウ通り沿いに立つ松木遺跡群の標柱
貝徳寺古墳の名残の丘。円墳のような形状
駅を起点とした「なかがわ見聞録」との名の、散策ルートも整備。古代史探訪を組み合わせ、新幹線の旅と時間をさかのぼった旅を、ともに楽しんでみてはいかがだろう。
おさんぽ案内人
カミムラカズマ
散策の案内人・ライター・編集者。日本国内の街歩きと、食を訪ねる旅をテーマにした情報発信を展開。カルチャースクールでのおさんぽ講座ほか、社会福祉法人で介護レクリエーション「旅ばなし」も開催。
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