街をくまなく歩いていると、そこに暮らすイメージが湧いてくることがある。そんな「私的、住んでみたい街ランキング」のベスト3に、間違いなく入ってくる街が函館。ほかの二つの街とともに、坂道が錯綜しているのが共通点といえる。
函館は1854(安政元)年の日米和親条約締結時に開港した際、外交のための領事館や教会、貿易商や海産物商向けに商館や銀行などが、港の周辺に建てられた。坂が多いのは、開港期に栄えた西部地区の道路を整備した、明治期に防火対策で坂道を幅広の直線にしたなど、理由が諸説伝わっている。
19の坂には名前がつけられ、函館港から函館山頂に向けほぼ平行にのびている。それぞれに個性がある坂道を、西側から順にたどってみることにしよう。
生活感が感じられる名がつく坂道の数々
市電の終点の函館どつく前電停で下車、イカ漁の拠点である函館最古の入舟漁港を経て、漁師町を抜けると「魚見坂」の麓へ出る。漁師が坂の上から魚群を探したのが名の由来とされ、沿道には函館最古の寺院の高龍寺をはじめとした寺町、頂上には開港後に函館で亡くなった外国人を埋葬した函館外国人墓地など、観光地から離れ静かな佇まいを見せている。
魚見坂からは函館山の裾野を巻く道を、坂道と直交しながら進んでいく。「幸坂」の急な登りを上がっていくと、旧ロシア領事館付近から函館どつくを一望。西埠頭まで続く「姿見坂」は、遊郭の女性が見かけられたのが名の由来。閑静な街中を下る「常盤坂」、地域の発展を願い名がついた「弥生坂」、傾斜が14度近い急坂の「東坂」など、市街を錯綜する生活感あふれる坂道が連続する。
「基坂」の付近は明治期に開拓使や道庁の支庁があった函館の中心で、坂の途中には函館市旧イギリス領事館、元町公園には旧北海道庁函館支庁庁舎、そして坂を見下ろす中腹には旧函館区公会堂の、バルコニーつきの建物がそびえる。明治43年築の木造2階建、アメリカのコロニアル風の擬洋風建築で、地域の住民の集会所として使われていた建物だ。
教会に囲まれた坂道で異国情緒を体感
函館港に停泊する連絡船を見下ろすビュースポットとして知られる「八幡坂」の先は、元町を象徴する三つの教会が集まる。日本初のロシア正教会聖堂の函館ハリストス正教会、ゴシック式鐘楼が特徴のカトリック元町教会、上から見ると十字架の形をした英国聖公会の函館聖ヨハネ教会で、石畳の「大三坂」を囲む様に建ち並ぶ様子は異国情緒にあふれている。
百万ドルの夜景で知られる函館山を結ぶ、ロープウェイ山麓駅から、函館護国神社の参道でもある「護国神社坂」を過ぎて、函館山の山裾の道を巻くように東側へ。函館公園は1879年(明治12年)に開園した北海道で最初の洋式公園で、遊園地のこどものくににはメリーゴーラウンドや飛行塔といった懐かしい遊具が並ぶ。高さ10mの観覧車は1950年(昭和25年)製で、日本最古とも。動物施設も併設された、地元の子ども連れで賑わう公園である。
函館公園を出たところは函館市電の電車道で、緩い坂道から「ロマンス坂」との愛称も。下ったところが終点の谷地頭電停で、市街を抜け海岸沿いの坂のピークから緩く下ると、立待岬の園地が断崖の高台に広がっている。函館山の南東端、津軽海峡に突き出た海抜約30mの岬で津軽海峡に面した断崖の、荒々しい眺めが続いている。
洋館や教会へ至る坂、生活道路の坂。函館の坂には成り立ちや見える風景など、各々個性がある。様々なストーリーがあり、往来する人たちの暮らしが垣間見えるのが坂道の面白さで、巡り歩き坂の上から港を見下ろしてみれば、函館の街の多彩な表情を伺うことができるはずだ。
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