Culture

おさんぽ案内人が行く島根・足立美術館 日本一の庭園の冬の表情を訪ねて


島根県安来市にある足立美術館は、地元出身の実業家・足立全康によって設立された美術館。日本画の巨匠・横山大観をはじめ、近代日本画の名作を多数収蔵しているが、この美術館が人々を魅了するのは、5万坪に及ぶ広大な日本庭園の存在だ。

枯山水庭、苔庭、白砂青松庭、池庭など、多様な様式の庭が揃う足立美術館の庭園は、アメリカの日本庭園専門誌『ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング』の日本庭園ランキングで22年連続第1位に選出。さらに、『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』でも三つ星として掲載されるなど、その美しさは国内外で高い評価を受けている。

創設者の足立全康氏の像と、庭園日本一の記念碑

一幅の絵画のように鑑賞する庭園


「庭園もまた一幅の絵画である」という、足立全康の理念に基づき、足立美術館の庭園は建物内から眺める「鑑賞式庭園」として設計されているのが特徴。四季折々の風景が楽しめるが、特に2月頃に見られる冬の庭園は、他の季節にはない凛とした静けさが漂う。

自然と人工の調和が美しい主庭の枯山水庭(足立美術館提供)
館内からガラス窓や柵越しに鑑賞。喫茶室もある(足立美術館提供)

訪れた2月上旬に積もった雪は、深さ15センチほど。純白の雪が植え込みや岩の輪郭を覆い、一面に広がる白を基調としたモノトーンの世界。

この時期は天候が変わりやすく、曇天の下に広がる水墨画のような風景、雪混じりの霞がかる光景、日差しに照らされて輝く白銀の庭園など、刻々と変わる表情を楽しめる。

庭の風景を絵画のように鑑賞できる「生の額絵」(足立美術館提供)
「生の掛軸」は滝と借景の山の景観が見事(足立美術館提供)

雪景色を守る庭師たちの技


冬の足立美術館の庭園を語る上で欠かせないのが、庭師たちの仕事。特に「雪落し」と呼ばれる作業は、景観と樹木を守るために重要な役割を果たしている。

雪落しの様子。雪が降る寒い中で行う厳しい作業
赤松は斜めに植えられているため支えを施した木も

雪の多い時期、開館前の早朝や閉館直前に、庭師たちが樹木や石に積もった雪をていねいに払っていく。「いぶり」という道具を使って雪の塊を落とし、竹ぼうきで払いながら作業を進めることで、木々の枝や石の姿が徐々に露わに。

赤松や黒松の枝に積もった雪は、先端に鉤のついた長い竹の棒を使って揺さぶり、一本一本落としていく。いずれの作業にも、技術と体力が要求され、職人の技が光る場面だ。

特に大雪の際には、サツキが潰れたり、松の枝が折れたりすることを防ぐため、「雪落し」は不可欠。庭師たちは、お客の視界に入らない裏道を通り、足跡を残さないよう、細心の注意を払って作業を行う。払った雪も平らに均すなどして、自然な景観を保つことに余念がない。

景観を考慮しながら足跡を竹ぼうきで消していく

刻々と変化する冬の庭園の表情


庭園課長の濱田友和氏は、「冬の雪景色は、雪の量が重要。大雪になると石や木が隠れてしまうため、粉雪がほどよく積もり、松やサツキ、庭石がうっすらと見える状態が最も美しい」と語る。

雪落しを終えた枯山水庭。松の枝ぶりが露わに
白砂青松庭。植木がほどよく雪をかぶる(足立美術館提供)

冬の庭園は、天気の変化によって表情を変える。曇天の下で静寂に包まれた景色が、日が差した瞬間に明るく輝く白銀の世界に一変することがあり、気温が上がると、石から湯気が立ち上がり、幻想的な雰囲気を醸し出すことも。

池庭に射し込んだ薄陽が幻想的な風景を形成(足立美術館提供)

「庭師の仕事は、基本は『掃除』」と話す濱田氏。日々、庭の景観に気を配ることで庭園の美しさを保っているという。四季の中でも、冬はほかの季節に比べて独特な、庭師の技術と配慮が必要とされているようである。

四季折々の美しさと訪れるたびに変わる景観


足立美術館の庭園は、四季折々に異なる美しさを見せる。雪景色が楽しめる冬だけでなく、春の新緑、夏の青々と茂る木々、秋の鮮やかな紅葉と、訪れるたびに新たな発見がある。

夏の枯山水庭。赤松と借景の山の緑が一体に(足立美術館提供)
色とりどりの紅葉に染まる秋の枯山水庭(足立美術館提供)

足立美術館の庭園は、季節ごとに異なる表情を見せ、美術品とともに訪れる人々を魅了し続けている。

CREDIT
Videographer :カミムラカズマ
Support :のだ ゆうた
Support :モゲ

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