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30万人。この数字が何を示しているのかご存知でしょうか。これは、1年間に世界で声を失った人の数です。日本では約4000人。喉頭がんの治療によって喉頭を切除したなど原因は様々です。
身近な例で言うと、音楽プロデューサーのつんく♂さんが、喉頭がんによって声帯を摘出し声が出なくなってしまったことは余りにも有名ですよね。そんなつんく♂さんがテキストによるやり取りを余儀なくされていることからも、声によるコミュニケーションが取れない不便さは計り知れないものがあります。
そんな人たちのために、電気式人工喉頭(EL)と呼ばれる機械があります。下の画像がそのELという機械です。首に押し当てることで声を発するサポートをしてくれる機械ですが、欠点として片手がふさがってしまううえに、単調なロボットのような声しか出ません。残念ながら電気式人工喉頭は、こうした課題を抱えたまま20年以上そのデザインは変化していないのです。
これらの問題を解決するために開発されたのが「Syrinx」です。首にかけるハンズフリー型で、人の声に近い声を生成することができます。
使用者の声を再現
「Syrinx」の最大の特徴は「人に近い声を生成できる点」です。この特徴に触れる前に、人が声を発する原理を抑えておく必要があります。
まず肺からの空気を声帯で振動させ、この時の振動音が声の元になります。これを原音と言い、声質を決めます。原音が咽頭、口腔を通って響く時に、舌や唇の形を変えることで「あ」や「the」のような声となって発声されるのです。
つまり、声を失ってしまったというのは、何らかの原因で声帯からの発声が困難になり、原音を作れなくなってしまった状態ということです。そして、人工喉頭は原音の代わりになる振動を外部から与えるデバイスです。今までのデバイスは単純な振動しか生み出せなかったため、誰が使ってもロボットのような声しか出せなかったのです。
しかし、「Syrinx」はユーザーの音声が残っている映像や音声データから、ユーザーの元の声を分析し、その声を再現する振動音を作製。それによってユーザーの元々の声に近い音声を作り出すことに成功したのです。
音声を抽出できるようなデータが残っていない場合、残念ながら自分の声を再現できないですが、他の人の声から作製した振動音から好みの音を選んでもらうことを検討しているそうです。
さらに、首にかける形状にすることで、声を出すためにいちいち首にデバイスを押し当てるストレスから解消され、ハンズフリーで会話を楽しむことができます。商品の見た目でも、公共の場で悪目立ちせず、むしろ会話のきっかけになるようなクールなデザインを意識して作られています。
James Dyson Award 2020 国内最優秀賞を受賞
「Syrinx」を開発したのは、東京大学大学院の竹内雅樹さん達4名のチーム。竹内さん達は声を失った人たちと健常者の声の大きな違いに驚き、そんな人たちにもう一度楽しい会話を取り戻して欲しいという思いからプロジェクトをスタートさせました。
プロトタイプを喉頭摘出者の方々に試してもらい、フィードバックを貰いながらデバイスを改良させ、「Syrinx」を完成させたのです。下の画像が「Syrinx」の改良の軌跡です。
「Syrinx」は、James Dyson Award 2020の日本国内最優秀賞を受賞。今月から始まる国際審査へと駒を進め、各国の代表作品の中からTOP20や最優秀賞などが決まります。「Syrinx」がどのような評価を受けるかも注目です。
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