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2020年7月、スタンフォード大学米国アジア技術経営センターと北カリフォルニア・ジャパン・ソサエティが共催する「Japan – U.S. Innovation Awards」が開催された。この中で異彩を放っていたのが、イエバエで食糧問題の解決を目指すムスカだ。
そこで世界に大きな影響を与える可能性ある日本発の急成長企業5社が発表された。
・網膜投影ARグラスを開発する「QD Laser」
・音声感情解析AIの「Empath」
・ロボット義足ベンチャーの「BionicM」
・モビリティや世界初の独立型交流電池を開発する「AC Biode」
と、ガッチガチの理数系かつ、いわゆる“最先端技術”を扱ったベンチャーが名を連ねる中、異彩を放ったのがムスカだ。
取り扱うのは“最先端技術”ではなく、昔っから、どこっにでもいる「イエバエ」。ハエとり紙にへばりついているヤツだ。
そんなもっともポピュラーな“うざい虫”を使って世界を救う、それが農業スタートアップのムスカの目指す未来だ。
ゴミを宝物に変えるハエ
その社名がイエバエの学名「Musca domestica」に由来する「ムスカ」は、世界の食糧危機を解決しようと取り組んでいる。
彼らの武器は、45年の歳月をかけて1200世代の交配と選別をくりかえしてできたエリートイエバエ。このハエを使って、家畜の糞尿や食料廃棄物などから通常よりも早い速度で肥料と飼料を作りだす。
イエバエの幼虫は家畜糞を食べて成長し、家畜糞はイエバエの体液によって酵素分解されて肥料になる。
一般的に、農家で家畜糞を成熟した堆肥にするために約1年かかる。しかし、交配を重ねたムスカのイエバエを利用すると、数日という短期間で堆肥化になるという。
1回の堆肥化プロセスで肥料と飼料の両方を生成できる。堆肥化に使われたイエバエの幼虫は乾燥させて、飼料に加工。その飼料は、高タンパク質な上、家畜や養殖魚にとっておいしいものであるようで、食いつきが良い。
そのため、家畜や養殖魚の身が通常より大きくなりやすいというデータが出ているそう。
ソ連から引き継いだエリート
今から約50年前、旧ソ連が有人宇宙飛行を計画していた時代。往復4年かかると想定された火星への有人宇宙飛行では、食糧の確保と排泄物の処理が重要な課題だった。
その課題を解決するために選ばれたのが、イエバエを使った肥料と食糧の自給。しかし、旧ソ連の崩壊によって研究の継続は困難になった。ムスカは、その研究に携わっていた研究者からエリートのハエを授かり、その技術と研究を引き継いだ。さらに、そこから20年あまりの歳月をかけてムスカの理想とする「よく食べ」「よく孵化する卵を産む」イエバエへと育てあげた。
食糧危機の救世主
国連の試算によれば、2050年までに世界の人口は90億人に達する見込みで、FAO(国際連合食糧農業機関)はその年までに食料生産を60%増加させる必要があると発表している。
ムスカはイエバエを利用した短期間での肥料・飼料の生産システムを確立することで、その課題を解決しようとしている。