海外ノマドワーカーのフィリピン下鳥です。私のお気に入りの、このかごバッグ、実はフィリピンの女性達が手編みで作った製品です。
「スルシィ」は、日本人デザイナーの関谷里美氏が立ち上げた、フィリピンの天然素材バッグブランド。
魅力的な製品を生み出すだけでなく、現地の女性達の人生を変える場所にもなっているといいます。セブ島の工房に伺ってお話を聞きました。
現地で安価で取引されてしまう手工芸品
ブランドを立ち上げようと思ったきっかけを、関谷さんは次のように語ります。
2010年にセブ島に旅行に来たとき、お土産屋さんに天然素材でできたバッグがありました。3個セットで2,000円もしませんでした。1個数百円ということです。ふと、「一番大変な作り手さんは幾らもらっているんだろう。この額で売られているということは、本当にわずかな額しかもらえていないはずだ」と思いました。現地では、手のかかる手工芸品でも、安価にしないと売れません。それなら、デザインも品質も良いものを作って、日本で適正価格で売ることができたら、作り手に工賃もしっかり渡せて、ビジネスになるのではないかと思いました。
貧富の差が大きいフィリピンでは、貧困層がまともな賃金を得るのは至難の業です。毎日長時間働いてもわずかな稼ぎしかなく、生活に困窮し、子供に十分な教育環境を与えられず、貧困が連鎖していきます。
そしてフィリピン社会では、家族の稼ぎ頭を女性が担うことが少なくありません。関谷さんは、そんなフィリピンの女性達を、安定した仕事と収入を通して支援したいと考えました。
日本の百貨店で販売できる品質に
関谷さんは、現地でトレーニングができる環境を整え、参加者を募集し、かぎ針編みでのバッグ製作を指導していきました。
しかし、言葉も文化も異なるフィリピンの女性達に、日本で売れるバッグ製作をゼロから教えるのは、困難の連続だったそうです。トレーニングを途中で辞めてしまったり、同じミスを何度も繰り返して完成に近づかなかったりする参加者が続出しました。
それでも、教え方を工夫しながら、根気強く丁寧に指導を続けていくうちに、確かな技術が身に付いていきました。品質も徐々に安定し、今では日本の百貨店にポップアップストアを出して販売できるレベルに至りました。品質チェックも現地のスタッフが担当しています。
安定した工賃で生活環境が向上
現地での素材調達先や日本での販路も開拓でき、事業が軌道に乗って、女性達は安定した工賃を得られるようになりました。
スルシィでプロの編み子になった女性達の多くは、前職と比較して収入が大幅にアップ。子供の学用品代、病院に通う医療費、家のリフォーム資金などを得られ、生活環境が大きく向上したそうです。
セブ島に立地するスルシィの工房は、今では彼女達にとって、生活の糧を得られるかけがえのない場所になっています。
環境にやさしい天然素材ラフィア糸
スルシィの製品の素材は、椰子の一種、ブリの葉の繊維からできたラフィア糸。最後は土に還る、環境にやさしい天然素材です。
工房で実際に製品を見て、想像以上に編み目が細かく、しっかりした作りなことに驚きました。それでいて手編みならではの温かみがあり、ラフィア糸の自然な風合いがとてもよくマッチしています。
また、こういったエシカル製品は種類が少ないイメージがあったのですが、スルシィのかごバッグのデザインは約40種類と、かなり豊富。たくさんのデザインの中から、お気に入りの一品を見つけるのも楽しいです。
全てのバッグには丸いハガキタグが付いていて、バッグを製作した編み子のサインが記されています。裏面にメッセージを書いて投函すると、その編み子にメッセージを届けられるしくみです。
日本のユーザーから届くメッセージが、編み子たちの自信やモチベーション、喜びにつながっているそうです
ますます広がる活動の輪
スルシィでは近年、デザイナー育成のためのデザインコンペティションや、自分でデザインしたバッグを持ってランウェイを歩くファッションショーなどのイベントも開催し、編み子の誇りや意欲の向上につながっています。
さらに、現地の女性刑務所内でも職業訓練としてバッグ製作指導を行うなど、活動の幅をますます広げています。
2019年には、スルシィはSDGsの課題解決への取り組みが評価され、国連のビジネス行動要請(BCtA, Business Call to Action)への加盟が承認されています。日本では12社目、創業10年未満の小規模企業としては初となる加盟でした。
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関谷さんの圧倒的な行動力とその奥にある情熱、そして編み子の女性達の生き生きとした表情が、とても印象的でした。
関谷さんは、ハイエンドブランドとのコラボレーションや、世界中での販売も目指したいと語ります。今後の展開にも注目していきたいです!
株式会社スルシィ