Culture

「小数民族」と「ドラッグクイーン」 ヨシダナギが切り取った二世界とは 東京・池袋で写真展

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小数民族とドラッグクイーン(ドラァグクイーンとも書く)……。異なる二つの世界を一度に覗ける写真展が2022年11月23日まで、東京・池袋で開催中だ。撮影したフォトグラファー・ヨシダナギさんは、両者の共通点を「立ち姿の格好良さ」と説明している。

書斎にあるチベット写真集

千古文明・象雄遺風 西藏阿里 NGARI TIBET

こんな漢字とアルファベットが並ぶ1冊の写真集が、自宅書斎にある。僕は2005年7月から1年間、中国語を勉強するため中国の北京と武漢にいた。大学で学びつつ、休みの時には中国全土を旅した。29、30歳の頃で、気力・体力共に充実していた。いや、あり余っていた。

ユーラシア大陸の最も奥地に赴いたのが、中国語で「西藏」と表記するチベット自治区だ。同区西部にある「阿里」地区に入った。

目的は、聖なる山として信仰を集めるカイラス山(6,656m)を巡礼すること。と言っても、僕の場合は宗教的目的より、「秘境」探索の意味合いだった。同区の区都ラサで中国人3人と知り合い、車を1台チャーターして、西へ西へと向かった。

カイラス山のふもとに到着すると、一周約52kmの巡礼路を回り始めた。ともかく、空気が薄い。チベット人はスタスタと1日で歩けるが、僕らは2泊3日かけて回った。

「HERO」に惹かれる

その旅の思い出として、持ち帰ったのがこの写真集だ。引っ越す度に多くの本を捨ててきたが、15年以上も手元に残してきた。

風景写真に加えて、ページの終盤にはチベット民族を写したスナップショットがある。女性たちは、赤や青のパーツからなる大きなネックレスや髪飾りなど独特の装飾品を身に付けている。着物を連想させる布を巻いた男性もいる。

チベット旅行の道中、こうした装いのチベット人たちを目にした。美しく、素敵だった。万国共通の洋服では醸し出せない、味わいがあった。

こうしたことが原体験になっているのだろう。数年前、ヨシダさんが小数民族を撮影した「HERO」の展示会に行った際、とても惹かれた。

「何でそんな格好に?」「その服と髪型、えらい凝ってない?」

一人そんな突っ込みを入れたものだ。少数民族の姿には、突き抜けた魅力があった。

この下の写真は、ヨシダさんが中国四川省のチベット自治州で撮ったもの。僕には、かつてのチベット旅行を思い出させる一枚となった。

ケロリン桶とクイーン

今回の展示会は、この「HERO」だけにとどまらない。ヨシダさんが2019年から新しく追いかけ始めた、ドラッグクイーンを撮った「QUEEN」も飾られている。

アメリカ、フランス、日本で撮影した。海外の作品は、格好良くまとめられている印象が強い。かたや日本は、チャーミングさがあふれている。

中でも僕が好きなのは、「ケロリン桶」とクイーンだ。頭に白いタオルを乗せ、胸から下半身はバスタオルで隠す。顔は、アイメイクがバッチリ。

そんなクイーン5人が、あのお馴染みの黄色い桶を揃って手にしている。撮影場所の銭湯が、昭和感満載なのもいい。この発想は、ヨシダさんならではだ。

「偽れない立ち姿」

銭湯のクイーンには思わずニヤリとなるが、多くのクイーンの姿はイケている。

「HERO」の少数民族と「QUEEN」のクイーン、その共通点をヨシダに聞いた。すると、それは「立ち姿の格好良さ」だとし、次のように続けた。

「内から出る格好良さだったり誇りだったり、そして紆余曲節のドラマを背負っている」

「人間の強さやもろさが全面に出るのが、偽れない立ち姿なのだろうと撮影をしていて感じる」

閉じた扉を開く契機に

チベット旅行で出会ったチベット人たちに、僕が心惹かれたのは、こうした背景を感じ取ったからに違いない。当時、僕はうまく言語化できなかったが、ヨシダさんの言葉を聞いて、「なるほど、合点」となった。

新型コロナウイルスに翻弄された2020年春以降、海外どころか国内でも日常の「外」に出にくくなった。すると、どうしても自らの思考も興味範囲も狭くなる。一度、閉じ始めると、ますます閉じる傾向に追い込まれる。

しかし、世界は多様で多彩だ。それを味わうことなく、小さい日常だけで生きていくのはもったいない。コロナと共存できるタイミングにも来ている。

閉じた扉を開く契機として、この写真展を見に行ってはどうだろうか。

展示会の詳細

名称 NAGI YOSHIDA NEW EXHIBITION ~HERO&QUEEN展~

会場 西武池袋本店7階(南)=催事場A

会場時間 10:00〜21:00 ※23日の最終日は18:00閉場。入場は閉場時間の30分前まで。

料金 一般600円 大学生・高校生400円(共に税込み) 中学生以下は無料

CREDIT
Planner/Videographer/Interviewer/Writer :高野 真吾

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