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俳優・渡辺謙さん(62)は、東日本大震災の被災地に2013年11月、カフェ「K-port」を立ち上げた。所在地・宮城県気仙沼市のK、謙さんのK、希望のKの三つの願いを込めている。11年1カ月を迎えた震災は、ともすれば我々の日常から遠くなりつつある。渡辺さんに気仙沼に通い続ける理由や被災地への向き合い方を、かの地で聞いた。
東日本大震災の報道が減る
3月16日深夜、福島県沖で地震が発生し、首都圏でも震度4を観測した。大きな揺れで、地震列島に暮らしていることを再認識した方も多かったに違いない。
今回の気仙沼行きは、この地震の影響で東北新幹線が使えなかった。アクセスは格段に不便となる。羽田空港から仙台空港まで飛行機、その後はレンタカーで移動した。
しかし、地震がこれほどの存在感を持つのは、首都圏では久しぶりだろう。この2年は新型コロナウイルスの感染拡大が、社会の最大の関心ごととなっている。最近はロシアによるウクライナ侵攻が、大きなニュースだ。
発生10年目を超えてから、東日本大震災関連の報道はめっきり減った。伝え手は、他のニュースを追いかけなければいけない。同時に、ネット上でPVが取りにくいことに代表されるように、人々の関心も薄れがちになっている。
頻繁な訪問 「俳優の看板外れる」
こうした状況下でも、渡辺さんは気仙沼に頻繁にやって来る。予定に空きが出ると、だいたい1泊2日の旅程を組む。その動機は、被災地カフェを作ったからという義務感ではない。
ここでは、「俳優・渡辺謙の看板を外し、K-portのオーナーとしての個人でいられる」。「自由な感覚」をもたらしてくれるのが、嬉しいのだ。
ただし、単に「リラックスするわけではない」。むしろ、その逆。「皿洗いなどもするし、帰る時にはボロボロ」。こう打ち明けながら、楽しそうに笑った。
それでも、かけがえのない時間を過ごせる。「次へのステップにもなるし、満たされる」。だからこそ、またやって来る。
目張り作業する渡辺さんに驚く
筆者は撮影前、こう語った渡辺さんが地道な作業をする様子を目撃した。取材日は3月26日土曜日。この日は、特別ランチのイベントがあった。
事前に約束した午前9時に到着すると、渡辺さんは準備を進めるスタッフたちと一緒にいた。そして、機材のコードを床にテープで固定する「目張り作業」を始めた。
正直、その姿を見て驚いた。オーナーならば指示役のみに徹していても、何ら不思議ではない。しかも単なるオーナーではなく、ハリウッド映画にも出演する俳優が床にかがんでいる。
撮影時に聞くと、「映画の現場でもやりますよ」「みんなで力を合わせて作ることには慣れているので」。さらりと語った。
「豊かな趣味」が示すこと
今回、渡辺さんに最も聞きたかった質問がある。それは「今後、我々はどう被災地と向き合っていけばいいのか」だ。
渡辺さん自身は、答えに辿り着いている。それが、被災地カフェの活動を「かなり豊かな趣味」とすることだ。
「ライフワークになるのではないか」と、末永い活動を意識している。その分、「楽しんでいけたらいい」し、「気が楽に来られる」ことを大切にする。
震災から11年超となると、確かに義務感や使命感だけでは、「被災地に行こう」となりにくい。
「会いたい人がいる」「元気をもらえる」「なんか楽しく過ごせる」「食べ物が美味しい」「また、あの景色を見たい」
こんな理由があった方が、多くの人にとっては足を向けるハードルが低くなる。それを渡辺さんは、自然体で実践している。
筆者「プライベートでも」の心に
筆者は今回、渡辺さんらの撮影を主目的とし、気仙沼で2泊3日を過ごした。仕事メインで向かったが、同時に期待している「おまけ」もあった。気仙沼訪問は、もう4回目。景色が綺麗で、魚が美味しいことを知っている。
出張先としての気仙沼に魅力を感じていたことから、万事予定を調整する気になった。気仙沼では、天気にもまずまず恵まれ、仕事の合間に「おまけ」を楽しんだ。
そして、今度は仕事を離れて、「プライベートで訪問したい」という気持ちになっている。
渡辺さんはインタビューで「楽しむ人が一人でも増えれば、それ(被災地に寄り添うこと)につながっていく」と語った。
「仕事を離れても行きたい」という僕は、その「一人」になりつつある。
「ブルネロ・クチネリ」との出会い
そして、その時の旅行では、「K-port」にも立ち寄る。渡辺さんのインタビューを懐かしむだけではない。イベントがあれば参加したいし、通常営業時ならば、まったりコーヒーを飲みたい。
取材訪問時のイベントは、「イタリアン特別ランチ」だった。イタリアのファッションブランド「ブルネロ・クチネリ」と、イタリア料理の日高良実シェフがコラボ。出会いと学び、美味しさがあふれていた。
同ブランドは、「人間性を重んじる倫理的な資本主義」を掲げている。近年「資本主義の在り方」に関心を寄せている筆者には、色々なヒントをくれそう。創業者の経営哲学を綴った本が手に入ったので、少しずつ読み進める。
絶品だった日高シェフの料理
コラボ相手の日高シェフの料理は、さすがに絶品だった。
特にメイン料理のメカジキは、気仙沼ならでは。さっぱりしたソースが魅力を引き立てていた。ほかの機会だと、半分ほどの量で提供されるのではないか。惜しみないボリュームも、嬉しかった。
また、オリーブオイルがたっぷり使われていたのも印象に残る。デザートとして出されたアイスクリームにもかけたほど。初体験となったが、癖になる味わいだった。
こうした美味しい料理は、皆を幸せにする。渡辺さんはこの間、随時、マイクを握って日高シェフに料理の説明を求めていた。そのホスピタリティーの高さも、イベント参加者を笑顔にしていた。
気仙沼に出かけてみては
新型コロナ対策をしっかりしつつ、そろそろ国内旅行に行きたい方も増えてきている。
被災地カフェ「K-Port」の裏には、露天風呂の景色が素晴らしい気仙沼プラザホテルがある。そこに宿泊し、「K-port」に散歩に出かける。その合間に、動画内で映像を流した「気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館」「安波山」「気仙沼市復興祈念公園」に出かけてはどうだろうか。
気仙沼で長らく記者をしていた友人が教えてくれた、気仙沼を代表する観光ポイントだ。港町の景色も楽しめるし、震災を振り返る機会ともなる。
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楽しむことを主目的に、被災地を訪問してみる。それが「謙さん流」の被災地支援と言えるかもしれない。
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