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「手練れ」の小説家が介護を舞台に選んだワケ。相場英雄ミステリー『マンモスの抜け殻』 その魅力とは?

皆さん、お正月はどう過ごしますか? おせち堪能も、ネット三昧も、ひたすら寝るのも、どれも魅力的。それらの予定に、読書を加えるのはどうでしょうか。オススメするのは、エンターテイメントとして楽しめつつも、少し先の未来を考える材料にもなる1冊。『マンモスの抜け殻』(文藝春秋)です。

著者は「手練れ」の相場英雄さん

著者は作家の相場英雄さん。2012年、BSE(牛海綿状脳症)問題を題材にした『震える牛』が、話題をさらいベストセラー。翌13年、「血の轍」が第26回山本周五郎賞候補作となり、以降もコンスタントに作品を送り出しています。

「手練れ」と評せる、その相場さんが今回、舞台に選んだのが「介護」。しかも、それを見事にミステリーに仕上げています。

ネタバレを避けて、概要を紹介すると次の通り。

高齢化が進み「限界集落」となった都心の団地で、介護施設経営者が殺害されます。事件を担当することになった刑事、介護施設の職員、被害者と会っていた女性投資家の3人が、事件を契機に再会。40年前の出来事と、現在の殺人事件が交差しつつ、物語は予想外の結末を迎えます。

撮影現場は「団地」近くで

相場さんの動画を撮影したのは、2021年12月中旬。快晴の昼間でした。場所は、相場さんが作品を書くきっかけの一つとなった、ある団地近くの公園です。

公園での撮影後、この団地を相場さんと共に歩きました。大通りを挟んだ向かい側とは、全く異質の雰囲気。昭和から時が止まったままの感じがします。

平日の午後という時間帯を差し置いても、お年寄りしかいません。そこそこ歩いたので、子ども連れや大学生などがいてもよさそうですが、ほとんど目につきませんでした。

駐輪場を覗いても、子ども用らしい自転車はほとんどありません。

ここに、社名があるのにボコボコに痛んでいる車がやって来ては、お年寄りを施設に連れていくのです。親の介護を意識している作家の相場さんの創作意欲が刺激されたのも、うなずけます。

「介護に未来はあるか?」

相場さんへの取材では、動画にある質問のほかに「介護に未来はあるか?」と聞きました。それに対する答えは、次の通りです。

「現状のこのシステムでいくと、未来はないと思います」

「小説の中で登場させた、(女性)投資家のような存在、もしくは全く新しい介護用品とか、あまり期待はできないが政府がドラスティックに介護に対する姿勢を変えたら、これは凄く明るい未来になる」

「日本だけが介護問題を抱えているわけではなく、今後、特に先進国や中国は老人の数が増えていく問題に直面するので、そこで一つのビジネスモデルを日本で作れれば、これは非常に明るい未来がある」

「逆にこのまま手をこまねいていると、底が抜けたようになってしまう。介護難民とかが出てくる可能性が非常に高いと思います」

相場さんが言及した女性投資家は、先端技術への投資実績があり、その知見を介護分野で生かそうとします。作品のヒロインと言える存在です。

目次は難解だが、本文は読みやすく

ここで書籍に触れると、「目次」に並ぶ言葉は、どうにも耳慣れません。

第一章「拘縮(こう・しゅく)」

第二章「喘鳴(ぜん・めい)」

などと、医学や介護の専門職でもない限り、調べないと意味が分かりません。

なお「拘縮」は「関節が動かしにくくなった状態」、「喘鳴」は「ヒューヒュー・せーぜーなど異常な呼吸音がすること」になります。

しかし、安心して下さい。

本文は読みやすく、最終盤に向けて、「そうきたか!」とうなる展開が待っています。終わりまで飽きずに読めること請け合いです。

・ ・ ・

筆者は、まもなく46歳になります。両親はそろって70歳代。2人とも健康に気を付けていて適度な運動をしていますが、やはり年を取ってきたと感じざるを得ません。

介護問題が、徐々に身近になっています。

bouncyファンの中にも、両親だけでなく、親類、祖父母の介護が迫っている方もいるでしょう。もう渦中だという方もいるかもしれません。

その反面、「介護なんて、まだまだ先」という感覚の方も、いるはずです。

しかし、老いや介護はいずれ万人に平等にやってくる、「少し先の未来」の話です。

介護と接する手始めに『マンモスの抜け殻』を手にしてはどうでしょうか?

おすすめ
  • 相場英雄
  • マンモスの抜け殻 単行本

  • 税込み1,980円
CREDIT
Videographer/Writer :高野 真吾
Videographer/Support :kaho.miyazaki

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