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長年衆院議員を務めた政治家の尾崎行雄(1858~1954)は、「憲政の神様」と呼ばれる。東京・世田谷にある、その尾崎ゆかりの洋館を守ろうと、補修費用を募るクラウドファンディングが実施中だ。活動の中心にいる漫画家の山下和美さんは「街並み自体はどんどん変わるが、変わらないものが1点あってもいい」と洋館保存の意義を訴えている。
住宅街にある素敵な水色の洋館
東京・新宿駅から小田急線の下りに乗ること、10数分。世田谷区の住宅街にある豪徳寺駅に到着した。駅前のにぎやかな通りを抜けながら、歩くこと10分。誰がみても歴史を感じさせる2階建ての洋館が現れる。これが旧尾崎行雄邸だ。
建設時期は1888(明治21)年ごろが、有力とされる。当初は東京・麻布にあったが、尾崎から譲られた英文学者が1933(昭和8)年に現在地に移築したとされる。
窓が大きく取られた水色の建物は、実に可愛らしい。同時に100年を優に超す月日を経てきただけに、重厚さも漂う。
洋館を見た受け止め方は、各人各様に違いない。しかし、誰もが共通して「この建物は一度壊したら、もう二度と造れない」と感じるはずだ。
階段で読書したくなる
外観だけでなく、内部も魅力に富む。
今は誰も住んでいないが、割と最近まで住居として使われていた。そのため内部に足を踏み入れても、かび臭さや埃っぽさを感じることはない。
1、2階とも天井が高い。各部屋には外観の特徴となる大きなガラス窓があるため、解放的で気持ちがいい。
筆者が特に惹かれたのが、2階へと上がる階段だ。半分ほどの位置に踊り場があり、その上にも大きな窓が取り付けられている。
ここの住民だったら、きっと階段に腰かけて読書したくなる。
1階は洋室3室、2階は洋室4室のつくり。子どもが何人か集まったら、すぐに隠れん坊をしそうだ。これだけ広ければ、なかなか見つからず、白熱すること間違いない。
補修費「最低でも1億円」
他方、補修が必要だということは素人目に見ても明らか。特に台所などの水回り関係の痛みが激しい。
クラファンサイトの「MOTION GALLARY」には、補修費は「最低でも1億円」と出ている。耐震工事も必要だというから、それぐらいの金額になっても不思議ではない。
昨年、山下さんを含む地域住民が多くの仲間を呼び込み、解体寸前だった工事を止めた。しかし、末永く守っていくためには、補修した上で、毎年の税金を支払いつつ、保全・管理していく必要がある。
山下さんと同じく家主となった漫画家の笹生那実さんは、カフェ、ギャラリー、撮影スタジオなどに使っていく構想をインタビューに語った。そこからの売り上げで、保全・管理費を少しでも賄っていく考えだ。
「雑司が谷旧宣教師館」の先例
同じ都内では豊島区に、東京都指定有形文化財の「雑司が谷旧宣教師館」がある。豊島区のサイトによると、1907(明治40)年に建てられた「豊島区内に現存する最古の近代木造洋風建築」とのことだ。
筆者もたまに足を運ぶが、白い壁に緑色の窓枠がはめられた洋館は美しい。敷地には木々も植えられていて、その周辺は時間が止まったような落ち着きがある。地域住民に愛されており、雑司が谷地域の魅力アップに役立っている。
きちんと補修できれば旧尾崎邸も、地域シンボルになるだろう。招き猫発祥の地という一説もある「豪徳寺」が、すぐ近くだ。豪徳寺で開運を願い、旧尾崎邸で「映える写真」を撮り、豪徳寺駅近くでランチをして帰る。近い将来、こんな楽しみ方が生まれるかもしれない。
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壊してつくるダイナミズムは、都会の活力を生む。かたや、これという街の風景を残すことが地域の個性にもなる。旧尾崎邸を守り続けることは、多様な街の姿を次世代に受け継いでいくことにつながるのかも?