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江戸時代に、百姓の伝治左衛門が焚き火をしていて発見した「燃える石」。それが近代日本の目まぐるしい発展を生み出す原動力になった。
日本で初めて石炭が発見されたのは、現在の福岡県大牟田市にあたる「三池」。江戸時代にそこから始まった石炭採掘は、馬車で各地へと運ばれ、九州各地の発展を支えた。
採掘から400年あまりが経過し、馬車は電車になり、三池の石炭は日本全国へ運ばれるようになった。戦後の復興を支える原動力にもなったのだが、
1997年、炭鉱の町に炭鉱は封鎖され、石炭の町から石炭の“香り”と“手触り”を運んだ電車はなくなった。しかし、“音”と“風景”はしっかり残った。
愛と念がこもる炭鉱電車だから…
2020年5月、三井化学株式会社は、大牟田工場(福岡県大牟田市)において原材料の搬入等に使用している三井化学専用線(旧三池炭鉱専用鉄道)の廃止を決定した。
しかし、三池炭鉱の時代から現在に至るまで142年にわたり活躍を続けてくれた炭鉱電車への感謝の思いを込めて。未来に向けたレガシー(遺産)として活用できるよう映像・音楽の2組のクリエイターと共に、「ありがとう 炭鉱電車プロジェクト」を開始した。
「風景の資産」記録化プロジェクト
三井化学専用線で使用している車両は、1915(大正4)年三菱造船製を始め日本で稼働する最古級の電気機関車。炭鉱電車の歴史を振り返りつつ現役で稼働している様子を、映画監督の瀬木直貴氏が短編映像を制作。9月28日に、「風景の資産」として2本の動画がYouTube上で公開される予定。その短編映像は、大牟田市及び関係団体へ寄付・提供される。
本編に入りきらなかった動画を、三井化学のYouTubeで先出し公開している。
「音の資産」記録化プロジェクト
炭鉱電車が発する「音」を記録として残すため、炭鉱電車にまつわる音をサンプリング。YouTubeなどで話題の、ささやき声や耳かきの音など「身体がゾクゾクッとする音」ASMR音源としてアーカイブ。
株式会社QUANTUMと株式会社オトバンクが手掛けるブランデッド・オーディオレーベルのSOUNDS GOODとコラボレーションし、「音の資産」を多くの人に楽しんでもらえるコンテンツへと高めて公開中。
今回の企画に賛同した、トラックメイカーのSeiho(セイホー)氏が、大牟田の地に赴き、炭鉱電車にまつわるさまざまな音をサンプリング。その音源を活用した楽曲は、YouTubeやSoundCloudで聴くことができる。
今回の動画でも使用しているが、ノスタルジックな気持ちが沸き起こり、シンプルに「ステキだ!」と感じた。ここの音はもしかして、こういうシーンの音か??と、音楽発信で光景を思い浮かべられるのも、また良い。
廃棄される雰囲気を変えたかった
今回の「ありがとう炭鉱電車プロジェクト」企画した、三井化学株式会社の松永有理さんから話を聞いた。
ーー今回のプロジェクトを企画された経緯は?
松永:大牟田の工場でウレタンを作る原料を輸送するために鉄道を使っていました。しかし、2020年になって原料の輸送ルートが変わることになり、2020年5月に線路を廃止することを決定しました。しかし、私たち運営側(三井化学株式会社)も自治体側も、車両や線路を保存する計画はなく、廃棄する方向でした。
松永:三池鉄道は、地域の方々にとって愛されている鉄道であると同時に、全国の鉄道ファンからもすごく支持されている路線でもありました。だから、処分してしまうことがとても残念だと感じ、なんとか車両と線路を保存できるようにしたいという思いで、今回の企画を立てました。保存しようという空気感を醸成しているところです。
ーーなぜASMR音源化、4K映像化を選んだ?
松永:大牟田に何度も足を運び、タクシーの運転手さんや、線路近くの食堂の人など、とにかくさまざまな方から意見や思い出を聞きました。国道を横切る電車なので、迷惑をかけることも多かったと思うんですが、割とポジティブに、大らかに街の人から受け入れられている電車なんだということがわかりました。
松永:いい思い出もそうでない思い出もひっくるめて受け入れられるような、未来に向かったレガシーとして、いわゆるトリガーとしての残し方にしたいなと思いました。そこでまず、いかに五感で残せるかを考えた時に、「映像」と「音」という残し方を選び方ました。
ーー「音の資産」はYouTubeやSoundCloudで公開されています。反応はいかがですか?
松永:評判はすごくいいです。Seihoさんが協力してくださった「音の資産」は、無料公開されています。そこにはSeihoさんが楽曲制作した音源と、炭鉱電車にまつわるサンプリング音源があります。
松永:ありがたいことに、そのサンプリング音を使った楽曲を作りたいと申し出てくださるアーティストさんもいらっしゃいます。これからどんどん広がっていけば嬉しいですね。
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2020年7月に大牟田を襲った豪雨で、車両が浸水してしまったこともあり、9月に開催される予定だったラストランイベントは現在延期を発表している。しかし、今回のプロジェクトが生み出した「音の資産」「風景の資産」を受け、自治体が車両の保存を検討し始めたのだとか。
現在電気系統の故障により炭鉱電車は動かなくなったが、その電車が積み上げてきた歴史と、関わってきた人の働きかけによって、地域や自治体を動かし始めている。役目を終えた142歳の電車は、音と映像という新たなカタチに変換されて人々の記憶の中で走り始めた。