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都会から離れてゆったりと暮らしたい。私たちは何百年も前から「桃源郷」あるいは「ユートピア」と呼ばれる理想の地に憧れ、それでも多くの人は都会で消耗しながらの生活を続けています。
泊まれる出版社
神奈川県南西部にある真鶴町は、海と山に囲まれた、文字通り自然が豊かな港町です。人口約7,500人で、神奈川県唯一の過疎地に指定されています。
真鶴駅の改札をでると、のどかな町がひろがり、ゆったりとした空気が流れています。
真鶴出版までは、歩いて約5分。住宅地の一画、細い路地を進むと真鶴出版の川口さんが出迎えてくれました。
東京からIターンで移住した川口瞬さんと來住(きし)友美さん夫婦。2015年から真鶴に住み始め、 出版活動と宿泊施設を営む「真鶴出版」を運営しています。
真鶴出版は、「泊まれる出版社」というユニークなコンセプトで冊子やリーフレットの制作販売と、オフィス兼自宅にゲストを招いて真鶴の町案内をすることで、町の魅力を伝えているそう。
泊まれる出版社はどんな活動をしているのか? 山々と東海道本線と、のどかな町が見渡せるオフィスでお話を伺いました。
街の魅力を伝える「泊まれる出版社」
川口:出版としては、主に真鶴の町を紹介するものが多いです。
町役場から委託された、移住促進のパンフレット「小さな町で、仕事をつくる」は、僕らの移住ストーリーを元にしながら、真鶴を紹介したものです。
町の紹介と、読み物的な移住ストーリー、そして真鶴に住む人々の紹介という3部構成になっていて、編集やデザインなどの制作を真鶴出版として行いました。
真鶴出版オリジナルの出版物としては、真鶴の名産「干物」の本「やさしいひもの」があります。これは、なかなか干物に馴染みがない人が多いということで、作り方・食べ方をまとめています。
本とは別に「ひもの引換券」が付いていて、これを持って真鶴に来れば干物屋さんで干物がもらえるというサービスをつけています。
來住:1日1組のみ宿泊を受け入れていて、一泊7800円。朝ごはんは私達と一緒に地元の干物定食を召し上がって頂き、1〜2時間、真鶴の町を歩いて案内しています。地元のパン屋さんや、酒屋さん、干物屋さんなどをめぐります。
1年目は外国の方が多くて、箱根が近いこともあり、箱根に泊まりたいが泊まれない方が真鶴に来ることが多かったです。「やさしいひもの」を出版したことがきっかけになり、真鶴のことを知って来てくれる方や、移住希望者の方や、新しい生き方を模索している方が徐々に増えていきました。
※2号店建設に伴い、宿泊施設は現在休業中。2号店は6/9にオープン予定。
みんなが「今ここに生きている」
來住:はじめて真鶴に来たのは、「くらしかる真鶴」という2週間お試しで真鶴に住める町の制度を利用してのことです。親戚や知り合いはいなかったのですが、町で出会う人それぞれがすごく魅力的だったことが印象的です。その連鎖があって、もう少しここに住みたいと思いました。
來住:みんな、今ここに生きている感じがすごくあるんですよ。
川口:例えば「人によって自分を変えない」ということですね。
僕らって都会に住んでいるとコンビニに入ったらお客さんと店員が別の立場にあると思うんですけど、そういう立場の違いがなくてフラットなんです。
誰がきても人間と人間が接する。一切取り繕わない。町の人みんながそういう感覚を持っているのがおもしろいですね。
來住:暮らしと仕事が一緒なんですよ。オンとオフがなくて、つながっているというか、切れ目がない感じで、裏と表がない。
25年間、町の景観を守り続けた「美の基準」
真鶴は東京から90分、神奈川県で唯一の過疎地に指定されています。
郊外の町は人口減少とともに活気がなくなっていくことも多いですし、均一化されることも多いのが現状です。真鶴はどうして景観を保ち続けているのでしょうか?
そのヒントとも言えるものを、川口さんが教えてくれました。
川口:僕がこの町に惹かれた理由の一つに「美の基準」という町の条例があります。
約25年前につくられたものですが、町の美しいところが69のキーワードでまとめられています。
「生きている屋外」「静かな背戸」など、キーワードそれぞれが詩的で、建築的な規定もあれば、「コミュニティ」という項目のように精神的な、心の面まで提案しているおもしろい条例です。
これで町が守られているからこそ、基本的に25年前から景観が変わらず文化が息づいているのだと思います。
2号店のクラウドファンディング
真鶴出版は、2号店をオープンすべく、クラウドファンディングサービスReadyforでプロジェクトを立ち上げています。
工事の現場をお邪魔すると、地元の大工さん、左官職人さんが和気あいあいと楽しみながら一軒家のリノベーションを進めていました。
横浜を中心に活動する「トミトアーキテクチャ」が設計を務め、窓は町内で解体された郵便局から貰った窓、地元名産の石材など、地元の方々から譲っていただいた思い出の品々を取り入れています。
1号店が「真鶴を知るきっかけ」だとすれば2号店は「もっと真鶴を知る場所」とのこと。
料金設定も1号店よりも抑え、町歩きとは違ったサービスを提供する予定だそう。
川口氏は、真鶴出版の活動を通した目標として「真鶴という選択肢を増やしてほしい」と語っていました。
都会とは違うコミュニティが残っている真鶴。そのコミュニティを知ることで、こんな生き方がある、知らなかったものを知れる。そんな体験を通して月に一回、半年に一回、真鶴に遊びに行こうかなと都会の人の選択肢になればいいとのこと。
都会に疲れたり、新しい発見をしたくなったら、週末に真鶴に行ってみると新しい発見があるかも?