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「これは快挙だよ!」自作の古代衣装をまとった縄文大工・雨宮さんが声を荒げた。
日本人は一体どこからきたのか? 国立科学博物館の今回のプロジェクトは、謎に包まれたルーツにせまる実験的な取組だ。クラウドファンディングで資金を募り、彼らは大海原に舟をこぎ出した。
国立科学博物館の人類学者・海部陽介さんらが、実証実験「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」を立ち上げた。それは、日本人のルーツには大きな謎に迫る壮大なプロジェクト。
日本各地の遺跡から、3万数千年前頃から、急に人が定着し始めたという痕跡が見られる。旧石器人がやってきたルートとしては、北海道、対馬列島、沖縄の3つが想定されている。
なかでも、当時大陸と陸続きだった台湾から沖縄へのルートは、海を渡る距離も長く最難関ルートだったと見られる。
ただ、その手段を示す「舟」などは当時の遺跡から見つかっていなかった。
そこで、海部さんら様々な分野の研究者と海洋探検家や舟作りの専門家と協力し、3万年前の技術で、可能とみられる舟を実際に作って、海を渡れるか検証することに。
そこで、科学研究としての壮大な実験航海が始まった。その費用を、ネット上で寄付を募る「クラウドファンディング」で集めたのも、新たな取り組みだった。
ありとあらゆる困難
3万年前の航海を再現するには、大きな壁がいくつもあった。
台湾と与那国島を隔てる黒潮を越えるための、舟とその漕ぎ手。現地に自生する素材と、当時の技術を再現し、草束舟、竹筏舟、丸木舟を製作。
幾度となく実証実験を重ねた結果、時速5~6kmの黒潮を横切れる速度の出るのは、丸木舟だということがわかった。
さらに、途中で休むこともままならない手漕ぎ舟での過酷な航海にも関わらず、屈強な男だけで編成してはいけない。というのも、これは移住し定着するための航海、漕ぎ手に女性も居たはず。ということで、漕ぎ手は、シーカヤックなどの熟練者で、男性4人、女性1人。山口県在住の原康司さん(47)がキャプテンを務め、最年長は台湾の宗元開さん(64)。
3万年前の大航海 本番
2019年6月下旬、台湾の浜で出航の準備を整え、天気、海況のもっとも良いタイミングを見極めるため待機。7月7日午後2時半すぎ、台湾から出航。
コンパスもGPSもない航海で、進む方角を決定するのに重要なのは、目標の視認性。与那国島はあまりに遠く、近づかないと見えない。頼りになるのは風・うねり・太陽・星など、それらから針路を探っていく。
転覆しやすい手漕ぎの丸木舟。休んだら黒潮に流され、到着できない。昼夜問わず漕ぎ続けなければいけない。漕ぎ手の交代も、飲食物の補給も一切ない過酷極まりない3万年前の航海。
7月9日午前8時ごろに与那国島沖合に着き、午前11時半すぎにナーマ浜に到着。約225キロを約45時間かけた実験航海は、無事成功した。
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主催の海部氏、漕ぎ手を始めとしたスタッフ60名超とクラウドファンデングで参加した大勢の大人たちの夢と本気とロマンが歴史を変える一歩へと導いた。かたい意志と信念を持った人間の爆発力は、海と時代を超越する。
国立科学博物館