日本酒の賞味期限はある?未開封や開封後の保管方法を日本酒専門店に聞いてみた

浜川友希
公開: 2019-07-26

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日本酒には賞味期限が書かれておらず、飲んで問題ないのか心配になる方もいると思います。実は未開封や開封後などの保存状態によって、日本酒を美味しく飲める期間は変わってきます。そこで日本酒のプロである日本酒専門店の「築地 熊ごろう」の店主が教える、日本酒の賞味期限の目安や正しい保存方法をご紹介します。


日本酒に賞味期限があるの?

「賞味期限」は、美味しく食べられる時期として多くの食品に書かれています。しかしどの日本酒の瓶をみても、賞味期限は書かれていません。実は、日本酒には明確に賞味期限が決められていません。

世界的に通用する食品規格「コーデックス」の中に、アルコール含有量10%(体積%)以上の飲料には賞味期限の記載義務はないと書かれています。なぜならアルコール度数が高いと腐敗が進みにくいと考えられているためです。

取材した「築地 熊ごろう」の店主佐藤さん

今回取材した日本酒専門店「築地 熊ごろう」の店主の佐藤さんによると、「日本酒はアルコール度数が高いため、誤った保管方法をしなければ腐敗することはまずありません」と話しています。つまり日本酒は長持ちしやすいお酒だと言えます。

ただ長持ちするとはいえ、「何年も保存してしまったので、飲んでいいか心配」と思う方もいるでしょう。そこで日本酒の賞味期限の目安となる、製造年月をもとに確認する方法をお伝えします。

賞味期限の目安になる「製造年月」の見方とは?

日本酒の瓶に記載されている「製造年月」

日本酒には賞味期限の代わりに「製造年月」の記載義務があります。製造年月は、日本酒が瓶詰めされて販売できる状態になった日付を指しています。この製造年月をもとに、日本酒のおおよその賞味期限を判断できます。

火入れをしている日本酒(一般的な日本酒。新酒やスパークリングなど)

製造年月から約1年が目安

火入れとは日本酒の製造工程の1つで、品質劣化を防ぐために65度前後で加熱処理を行います。10月から翌年4月にかけてつくられる新酒など、一般的な日本酒はこの火入れの工程を2回経ているため、比較的長持ちします。

生酒・生詰め・生貯蔵などの日本酒(ひやおろし・生酒など)

製造年月から約8か月が目安

一方ひやおろしは10月から翌年10月まで寝かせた日本酒で、火入れを1回しか行っていない生詰めのお酒です。生酒は1度も火入れをせずに熟成させたお酒を指しています。これらの日本酒は酵母などが活発にうごいているため、劣化が早い傾向にあります。これらのお酒は、できるだけ早めに消費するよう心掛けた方がいいでしょう。生酒・生詰め・生貯蔵のお酒には「生」や「ひやおろし」と書かれていますので、手元にある日本酒のラベルをご確認ください。

ただ製造年月から判断する賞味期限はあくまで目安です。獺祭や久保田のように、日本酒の銘柄によって賞味期限を示している場合もあります。不安であれば酒屋や製造元のホームページ等を確認すると安心です。

▼獺祭の場合

保存期間は?
生酒は開封しなくても1週間以内。その他のお酒も1~2か月以内を目安にお早目にお飲みください。開けてからは、どのお酒も酸化が進みますので2,3日以内など、できるだけお早目にお飲みください。

出典:獺祭を美味しく飲んでいただくために|獺祭の蔵元 旭酒造株式会社

▼久保田の場合

お酒の種類にもよりますが、開栓せずに冷暗所(光の当たらない25℃以下の場所)で保管した場合、製造年月より約半年から1年程度は美味しくお飲み頂けます。なお、この期間を過ぎますと徐々に熟成が進み、色や香味は変わっていきますが、お飲み頂いてもお身体に差し障りがあるということはございません。

出典:よくあるご質問|朝日酒造株式会社

▼すず音の場合

「仕上」日からなるべく1ヶ月以内にお召し上がり頂くことをおすすめ致します。

出典:すず音 20周年|宮城県の伝統的な手づくりの日本酒一ノ蔵

未開封ならまずは飲んでみる!日本酒の味の変化を楽しむ

熟成や温度によって日本酒は味を変える

先ほど製造年月を基準に判断する方法をご紹介しました。ただ日本酒は製造年月から1年以上過ぎた場合でも、おいしく飲めることもあります。なぜなら日本酒は未開封の状態で正しく保存すれば、熟成した味わいを楽しめる可能性があるからです。

製造年月が最近でも、1年以上熟成されている可能性も

製造年月は日本酒を瓶詰めした時期で、実際に日本酒がいつ熟成され始めたのかはわかりません。
例えば2019年に上槽された同じ日本酒でも、4月に瓶詰めすれば製造年月は4月、10月なら製造年月は10月になります。もし製造年月が1年以内だったとしても、上槽された年が1年以上前の場合もあります。

築地にある日本酒専門店「熊ごろう」の店主の佐藤さんは、製造年月について以下のように語っています。「酒蔵があえてしばらく熟成させてから出荷する場合や、卸先の酒屋が意図的に熟成させてから販売する場合もあります。そのため製造年月だけではどの程度熟成されているのか正確には分かりません」

そのため製造年月から1年以上経っていたからといって、日本酒のおいしさがなくなっているわけではありません。製造年月はあくまで目安と考えておきましょう。

未開封の日本酒なら思い切って飲んでみよう!

未開封の日本酒であれば、製造年月が1年以上たっていてもまずは飲んでみるのをおすすめいたします。10年以上押し入れに保管したままの日本酒を飲んだとしても、健康被害はありませんので安心してください。そのため例え製造年月から1年以上たっていたとしても、未開封のお酒であればまず飲んでみるのをおすすめします。日本酒によっては、10年ほど熟成させると違ったおいしさを感じられる可能性があります。

日本酒の魅力の1つとして、同じ日本酒でも温度によって味が驚くほど変化するといわれております。冷蔵のひやや常温、40度ほどに温めたぬる燗、50度ほどの熱燗など、様々な温度で味の変化を楽しめます。さらに大吟醸や純米酒、醸造酒など、原料や製法によっても味が違ってきます。どの温度帯が最もおいしくなるかはお酒によって異なります。そのためまずしばらく経ってしまった日本酒は、おいしく飲める温度を探してみるのがおすすめです。

「熊ごろう」の店主の佐藤さんによると、常温が最も日本酒が美味しく感じやすい温度だと話していました。まずは常温で試しに飲んでみて、その後いろいろな温度を楽しんでみると美味しく味わえる温度に巡り合えるかもしれません。

未開封&開封後の日本酒の保管方法の大事なポイント

日本酒のおいしさを維持するうえで何より重要なのが、保存方法です。誤った保存方法をしてしまうと、品質劣化につながってしまいます。そこで未開封と開封後それぞれで、日本酒を保存するポイントをお伝えします。

直射日光や蛍光灯の光はNG

日本酒は日光や蛍光灯の当たらない場所へ

日本酒を日光や蛍光灯の光にさらすと、すぐに品質劣化につながってしまいます。日本酒はデリケートなため、例え30分程度光にさらしただけでも変色してしまう場合があるといわれています。

熊ごろうの佐藤さんによると、実は日本酒の一升瓶の色に茶色が多いのは、日光などの光を極力遮断するためと話しています。それほど日本酒の保管において光は大敵といえます。保存時には直射日光はもちろん、室内の光も当たらない場所を選んでください。

冷蔵庫で保存する

日本酒は冷蔵庫で保管がベスト

熊ごろうの佐藤さんに一番いい保存場所を伺ったところ、未開封でも開封後でも「冷蔵庫が1番いい」と回答がありました。冷蔵庫は温度が低く、温度変化もないため日本酒の保存にはピッタリです。熊ごろうで出される日本酒も、基本的に冷蔵庫内で保管されています。そのため手元に日本酒がある場合には、冷蔵庫内で保管するようにしてください。

もし冷蔵庫に保存スペースがないのであれば、押し入れの奥のような1年を通して温度変化が少ない場所に保管してください。

ただ生酒や生貯蔵、ひやおろしのお酒、紙パックのお酒、開封後の日本酒に関しては、品質劣化が早く進みやすいといわれています。そういったお酒は押し入れのような場所ではなく、必ず冷蔵庫のなかで保管するようにしましょう。

いい酒屋を見極めるには「冷蔵庫の有無」をチェック!

ちなみに「日本酒は冷蔵保存が大切」といった知識は、日本酒を補完する際だけでなく、購入するときにも役立つ知識です。

熊ごろうの佐藤さんが全国各地で酒屋をめぐる際、酒屋に入ってまず確認するのが「冷蔵庫の有無」だそうです。日本酒をしっかり冷蔵保存していれば、日本酒を大事に扱っている店舗であり、逆に店内に冷蔵庫がなかったり、日本酒が理由もなく常温保存されている場合にはハズレの日本酒に出会う可能性が高くなるそうです。

そのため本当においしい日本酒を購入したいのであれば、ぜひ酒屋に冷蔵庫があるかどうかを確認するようにしてください。

開封後の日本酒はすぐに飲み切る

日本酒の開封後はすぐに飲み切ろう

未開封であれば長期間保存できますが、開封した日本酒であればすぐに飲み切るようにして下さい。開封後ですぐに日本酒を飲み切るのは難しい場合には、しっかりふたを閉めたうえで必ず冷蔵庫で保存するようにしましょう。ただ開封後の日本酒を飲むとき、白濁していたり色やにおいに違和感がある場合は飲まないよう注意してください。

飲んだことのないお酒は、居酒屋などで飲んでからがオススメ

もし自分用に日本酒を買う際には、居酒屋などで味を見たうえで購入するのが安全です。購入したものが口に合わなかった場合、瓶1本を飲み切るのは日本酒好きでも厳しいものです。実際熊ごろうに通う日本酒好きの常連客も、居酒屋などで飲んでおいしかった日本酒を購入する方がほとんどだと佐藤さん話していました。

そのため美味しい日本酒を購入したいなら、一度も味わったことのない日本酒は避けておいたほが無難です。

個性的な味がクセになる!古酒(長期熟成酒)を実際に飲んでみた

平成15年に醸造された古酒「金鼓」。独特の甘みで意外にも飲みやすい味わい

まだあまり知られていませんが、日本酒にはワインのように長年熟成させた「古酒(長期熟成酒)」という種類の日本酒もあります。

長期熟成酒研究会によると、古酒は「満3年以上蔵元で熟成させた、糖類添加酒を除く清酒」と定義しています。熊ごろうの佐藤さんによると、「古酒は一般的に紹興酒に近い独特な味わいに変化する」そうです。

10年以上前の古酒を飲んでみると……

日本酒初心者だと手を出しづらい古酒ですが、一度飲んでみると個性的な味にはまる人が多いと言われます。わたしも実際に、「熊ごろう」にて平成15年に醸造された古酒「金鼓」を常温でいただきました。飲むとデザートワインのような、フルーティーな甘みがありました。今まで味わったことのない個性的な甘さでしたが、不思議と飲みやすく感じました。今回は常温でいただいたものの、冷酒や燗で飲むとまた違った味わいになるそうです。

まだまだ日本酒はできたての新酒が最もおいしいイメージが強く、古酒の知名度はあまり高くありません。ただ熟成された古酒の複雑な味わいは他で味わえないため、ぜひ気になる方はチャレンジしてみてください。

終わりに……10年経った日本酒でも、まずは飲んでみよう!

ぬる燗・熱燗だとまた違った味わいに

日本酒の賞味期限は明確に存在せず、日光を避けて冷蔵保存を行えば長期保存も可能です。「古酒」と呼ばれる日本酒のジャンルがあるように、時間がたつと少しずつ味わいが変化するのも日本酒の魅力の1つです。製造年月から2年や3年、5年、10年以上と放置してしまった日本酒が見つかった時でも、未開封であればすぐに捨てすに、あらゆる温度帯で飲んでみるのをおすすめします。

今回取材したお店

築地 熊ごろう

東京メトロ築地駅2番出口から約200mの場所にあります。
全国のおいしい地酒と、手打ちそばや有機野菜など、日本酒にぴったりな食材が楽しめます。
営業日は火曜日~金曜日の18:00~23:00、カウンター10席のみです。
日本酒好きの仲間とはもちろん、1人でも気軽に来れるお店です。

築地 熊ごろうの外観
この看板が目印

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