ゲームデザイナーの原点 初代「どう森」のフィジカルな体験を語る【Moovooモノ語り】

濱田 隆史
公開: 2020-07-28

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ゲームデザイナー/ギフトテンインダストリ(株)代表取締役
濱田 隆史
1984年生まれ。ゲームデザイナー。ギフトテンインダストリ(株)代表取締役。Nintendo Switch「マドリカ不動産」「紙謎」や、VRボードゲーム「アニュビスの仮面」「間取りのカルタVR」等、デジタルとアナログを融合したゲームを主に作っています。趣味は陶芸と旅行。国分寺市在住。二児の父。
連載「Moovooモノ語り」
その道の専門家や著名人が愛用品へのこだわりと、それにまつわる物語を綴る連載、「Moovooモノ語り」。第4回目となる今回は、ゲームデザイナーであり自身で立ち上げたゲーム製作会社「ギフトテンインダストリ株式会社」代表取締役の濱田隆史さん。ゲームデザイナーを志すきっかけとなったゲームについて語ります。記事一覧は以下のリンクから。

ゲームデザイナーとしてのふるさと「どうぶつの森」


「どうぶつの森」というゲームを、きっと一度は耳にされたことがあるでしょう。
今日は【初代】「どうぶつの森」についてご紹介させてください。

私は小さなゲーム会社を経営していて、自身もゲームデザイナーとして開発に携わっています。
私が作るゲームはNintendo Switchのゲームなのにプリンターを使うものや、VRと粘土を組み合わせたものがあったりして、デジタルの技術を使いつつも手触り感のあるアナログ要素を大切にしています。

なぜこのような作風になったのか、答えは自分でも分からないのですが…
きっと「どうぶつの森」の影響も大きかったのでしょう。今でも手放せず、箱ごと大切に手元に残しています。

「どうぶつの森」は、敵を倒せ!お金を稼ごう!などの目標はなく、村でゆっくりお花を植えたり、魚をとったりして過ごす、当時では珍しいタイプのゲームでした。

このゲームが発売されたのは2001年。もう19年も前なのですね。
説明書から、最新作につながる仕様がほぼ実装されているように見えます。


当時の私は高校生。ゲーム雑誌を読み込むオタクで、発売日の朝に自転車を走らせたことが思い出されます。(発売日は平日が多いのですが、この日は珍しくお休みでした)

このゲームから受けた影響は計り知れず、今でも当時の体験を鮮明に覚えています。


ゲームの世界と、リアルの世界のつながり


「どうぶつの森」は時間の概念があり、リアルの時間と一致しています。
一部の珍しい魚は早朝にしか現れないので、初めてゲームのために早起きをするという経験をしました。
家族が誰も起きていない早朝に、居間のテレビをつけ、魚を釣るのが清々しいこと。
ゲームという仮想空間の体験でしたが、この清々しさはまさにリアルな体験でした。

時間によって村のBGMは変化します。例えば3時のBGM、4時のBGMといった具合に切り替わります。私はそれまで毎時間ごとにテーマ曲があるなんて考えたことがありませんでした。
リアルの世界も毎時間ごとにテーマ曲があるなんて考えると、ちょっと楽しいですよね。

また、一般的にゲームは自分が行動することでBGMが変わります。RPGだと、街に入ったら街のBGM、戦闘のときは戦闘のBGMというふうに。

一方で「どうぶつの森」は待っているだけでBGMが変わります。私達が生活するリアルな世界も、環境音は常に変化するものですよね。この不思議な仕様から、ゲームの中にいながらリアルの世界とのつながりを強く感じました。


箱の中のセーブデータ


「どうぶつの森」は大きなセーブデータを扱うゲームで、周辺機器の大容量記憶媒体「コントローラーパック」を使わなくてはなりませんでした。
この媒体はコントローラーの裏にさして使います。

最新作の「あつまれ どうぶつの森」は、インターネットを介して他の島(64版では村)に遊びに行ける仕様があります。
初代では、このコントローラーパックを友人の家に「物理的に」持っていくことで実現していました。
ゲーム中の中央駅から出発し、リアルの世界で自分が歩いたり、電車に乗ったりして、友人宅までの長い旅に出るのです。

このときの「お出かけ中」の体験はとても不思議なものでした。
村は正方形の形をしており、ちょうどコントローラーパックの形と同じです。
この2つがリンクして、この記憶媒体の中に村が閉じ込められているような感覚を持ちました。この小さい箱の中にパラレルワールドの存在を感じたのです。

当時のゲームソフトは刺激を与えるとセーブデータが消えてしまうことが多々ありました。ですので、「お出かけ中」はこの箱を慎重に扱いました。このときに箱を無くすことは村の消滅を意味しました。

同じようにデータはフロッピーディスクやMOに保管することが普通で、デジタルなものにも関わらず物理的な触感があり、例えばフロッピーディスクを手紙と一緒に送ったりもしていました。

今はデータとの付き合い方は随分変わったと思います。
保管場所はクラウドになり、音楽もソフト(アプリ)もサブスクリプションサービスです。なにか霊的で巨大な手に負えない存在になってしまった気がします。


リセットさんとの約束と村の崩壊


昔のハードにはリセットボタンがついていました。これを押すと色々となかったことに出来ます。
ファミコンも、スーファミも、そして64もリセットボタンが押しやすい位置についていたので、ゲームが上手く行かないとき、反射的にこのボタンを押す癖がついていました。

ところが「どうぶつの森」では、その行為に及ぶと「リセットさん」というモグラのキャラクターが待ち受けています。
リセットさんはプレイヤーに、リセットをしたことがいかに卑劣な行為かを長い間、説教します。この説教を飛ばすことはできません。またリセットさんの主張も正論のため、凹むしかありません。

特にお金やアイテムが消失するわけではありませんが、何か大事なものを失ってしまったような気がして「次はリセットはしないぞ!」と決意するのでした。
※「あつもり」ではオートセーブ(自動保存)が実装されたため彼は出てこないそうです

こうした村の生活でしたが、ついに崩壊の日が来ます。

「どうぶつの森」には年間を通したイベントが多数用意されています。例えばクリスマスや盆踊りなど。そのことを雑誌で知り、すぐに見たい!という気持ちに駆られました。そして設定機能から日付を変更できることを知ってしまうのです。

こうしてゲームに実装されているイベントを一通り体験しました。
そのときは満足感があったのですが、それ以来、村を訪れることはなくなり、それが今まで続いています。

今思うと、あんなに大切にしていたセーブデータは、リセットさんとの約束をまもることで成り立っていた価値だったのでしょう。日付を変更する行為はリセットに値する行為。
そのタブーを犯してしまったとき、村は崩壊してしまったのだと思います。



このコントローラーパックはまるでタイムカプセルのように19年前の記憶が詰まっています。
今はまだ心の準備ができていなくて、なんだか恥ずかしく、ゲームを再開する気にはなれませんが、もう少し大人になったら当時の自分に会いに行きたいと思います。

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  • みんなのふるさとへのタイムカプセル。言わずと知れたゲームの初代版です。昔、楽しんだ思い出がある人も、そして新しく「古きを知りたい」人も。

    ※ゲームをプレイするにはNINTENDO64本体が必要です。


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