スーパーカー少年の憧れを現実に。ポルシェ911カレラRS2.7

松村 透
公開: 2019-10-30
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憧れを現実に。名車オーナーインタビュー:1973年式ポルシェ911カレラRS2.7

・オーナー名:神谷元一さん
・ご年齢:51才
・愛車:1973年式ポルシェ911カレラRS2.7
・所有年数:16年

憧れ続けたクルマを手に入れたオーナーにその極意を伺う企画。その第一弾は、多くのポルシェフリークにとって垂涎の存在である「ナナサンカレラ」こと、1973年式ポルシェ911カレラRS2.7。オーナーの神谷元一さん(51才)は、少年時代にスーパーカーブームの洗礼を受けた「直撃世代」。手に入れてから16年。憧れを現実にしたその原動力とは。お金?情熱?それとも執念??果たして…。

はじめに、クルマに興味を持った原体験を教えてください

幼稚園の頃、父親の会社でミニカーを製造していまして、トヨタ2000GTや日産フェアレディZ432があったことを覚えています。この頃はまだ乗り物に興味を持っていた程度です。本格的に興味を持ちはじめたのはスーパーカーブームの影響が大きいです。王道はカウンタックとフェラーリBB、こだわり派はミウラでした。当時、私は小学生。クラスの男子のほとんどがスーパーカーに夢中でした。火付け役は漫画「サーキットの狼」。あるとき、ポルシェ930ターボの話題になったのですが、まったく話題についていけなかったんです。それが悔しくて、ザ・スーパーカー(二見書房)を手に入れ、単語帳のようにクルマの仕様を暗記しました。それ以来一気にのめり込むようになっていったんです。

やがて沈静化するスーパーカーブーム。しかし、神谷さんは…

スーパーカーブーム絶頂期の頃、クラスの男子の話題といえば、前日に放映された「対決スーパーカークイズ」なんです。知らないと日常会話が成り立たないほどでした。消しゴム、カード、大百科、果てはリトラクラブルヘッドライト付きのサイクリング自転車まで発売されたほどです。スーパーカーブーム自体は3年くらいでしょうか。私が高校生になった頃にはすっかりブームは去っていましたが、興味を失うことはありませんでした。ただ、スーパーカーという言葉は小学生の延長といったイメージだったので、周囲にはいいにくい雰囲気に変わっていましたね。

ブームが去った後でも「想い」を共有できる友人の存在が

高校生のとき、1人だけスーパーカーやクラシックカーが好きな友人がいたんです。その彼とは毎朝一緒に通学していました。ポルシェ356やロータス23、フォードコスワースなどのことを話しながら通学したものです。「ディノ246とナナサンカレラ、どちらを選ぶ?」…といった話題になると、学校までの道のりでは足りないくらいでしたね(笑)。はたして、自分はどちらを選んだのか…。

当時、私はスクランブルカーマガジン(現カーマガジン)や、くるまにあを愛読し、スーパーカーへの道を夢見ていました。青山にあった嶋田洋書(2015年閉店)の存在を教えてくれたのも彼でした。このときすでに彼は洋書を何冊も買っていたほどのマニアでしたよ。その後、大人になった彼と再会する機会がありましたが、とある自動車メーカーに就職したそうです。趣味ではクルマよりもバイクに熱中し、今やその世界では知られた存在となっています。

現在の愛車を手に入れようと思ったきっかけを教えてください

ポルシェ914、ポルシェ911カレラ(930)、ポルシェ911S(ナロー)と乗り継いでいったのですが、結婚を機に911Sを手放しました。あるとき、妻の実家に帰省する道中、久しぶりにポルシェのメンテナンスをお願いしていたショップを訪ねてみたんです。すると、ショップの社長さんが「いいナナサンカレラがあるよ」とおっしゃるんです。前オーナーさんがサーキットに使用していてフルオリジナルではなかったとはいえ、当時の相場からみても、二度と出会えないかもしれない価格でした。結婚する前から妻には「いつかナナサンカレラが欲しい」と公言していましたが、当時、3人目の子どもが産まれた直後でポンと買えるような状況ではありませんでした。

妻の実家に向かう車中、「いま、手に入れなかったら後悔するだろうから、購入資金を貸してあげてもいいよ」などと夢のようなお告げ(?)があったんです。仮に購入できたとしても果たして維持できるのか悩みました。しかし、すぐに決断しないとこの機会を逃してしまうことになります。意を決して、翌日にはショップの社長さんに連絡して、3日後には試乗・購入を決断していました。

ついに憧れが現実のものとなりました。率直なお気持ちは?

実は…、ポルシェ914を手に入れたときの方が喜びは大きかったんです。子どもの頃、ガラス越しに室内をのぞき込み、通過すればカメラ片手に追いかけた憧れのクルマ…。ついに自分がオーナーになったんだ!と思いましたね。自宅に納車してもらったんですが、近づいてくるポルシェ914を眺めながらワクワクしたことをよく覚えています。

愛車の気に入っているところを教えてください

・エンジン音
・スタイル
・軽快さと一体感
・想像以上にパンチの効いた加速
これらが絶妙なバランスで成り立っていること

…でしょうか。もともと私は「音マニア」でして。数あるポルシェのエンジン音のなかでも、ナナサンカレラが一番好きですね。生産されてから46年も経っているクルマですが、いつ乗っても「理屈抜きに楽しい」んです。これだけ長く所有していても飽きることがないんです。手に入れた時点でフルオリジナルではなかったですし、コンクールコンディションというわけでもないので、自分好みにモディファイできるところも気に入っています。

愛車のこだわりがあったら教えてください

やみくもにモディファイするのではなく、できる限り、当時の雰囲気を出すためにオリジナルパーツを装着するように心掛けています。入手が困難なものは「当時モノ」に限りなく近いモノを世界中から発掘して楽しんでいます。一昔前はeBayにもレアなパーツがリーズナブルな価格で出品されていたのですが、世界中でクラシックカーブームになってからというもの、買い漁る人が出てきたり、相場があがったりして、思うように昔のパーツが手に入れにくくなったように思います。マニアックな話をすると、同じ品番でメーカーが再生産しても、当時モノとは質感が異なることも少なくないんです。そうなると、マニアとしては「当時モノ」にこだわってしまいます。

維持するうえで苦労したことはありましたか?

出先でクルマが故障してレッカーのお世話になったこともありますが、最初に手に入れたポルシェ914ではもっと苦労したので…(苦笑)。古いクルマだけに「自分にとってはトラブルも楽しめる経験のひとつ」の境地に達しています。クルマが故障すると手放してしまう方もいらっしゃいますが、私の場合は、戻ってくるたびに「やっぱりこれだよね」の繰り返しなんです(笑)。

愛車以外で気になっているクルマを教えてください

実は数えきれないほどあります(笑)。フェラーリ デイトナ、ディーノ246、250ルッソ、ランボルギーニならミウラ……。どれも古いモデルばかりですね。新型911(992型)は別世界のクルマというイメージです。いずれも現実的に手が届く存在ではありませんが、もし叶ったとしても、このナナサンカレラを手元に置きつつ…が大前提ですね。

今後、クルマの世界はどうなっていくと思いますか?


サウンドは「やっぱり12発だよね」ということもなく、またマフラーの焼け具合で判断するわけもないEV時代の到来で、今後「楽しいクルマとは?」という定義そのものが変わっていくかもしれませんね。最近の自動運転や安全装備の技術革新は目覚ましいものがあると思いますが、技術者という職業柄「自動=電子制御=経年劣化したら壊れる」という認識なんです。

「自動」という言葉は、「なんでもお任せ」というイメージがありますが、機械である以上、あくまでも人間が主で、自動運転や安全装備は「補助装置」という位置づけは今後も変わらないように思います。そういった意味で「自分が操る楽しさ」は残るのではないか思いますが…。

また、この種の古いクルマにいつまで乗れるのかが気になっています。私は51才ですが「定年後の楽しみ」としてナナサンカレラの購入を考えていたら…。もしかしたら自由に乗れないか、かなりの制限が掛かっているかもしれません。もちろん環境への配慮は大切ですから、専用浄化装置の開発や、排ガスの濃度などに応じて年間で走行できる距離を定めるなど、古いクルマに乗り続けられる環境を望みたいです。

最後に、神谷さんにとって愛車はどのような存在ですか?


「コミュニケーション・ツール」です。このクルマを通じて国境や立場を超えた友人と知り合うことができました。言語が分からなくても「ポルシェ」語録と「誉め言葉」さえ知っていれば、コミュニケーションと信頼関係が成立するんです。ここで言う「誉め言葉」とは、相手の愛車に対する拘りのポイントのことを意味するのですが、案外、世界共通だったりします(笑)。

私にとって家族はかけがえのない存在ですが、このクルマもなくてはならないものです。スーパーカーブームに熱狂していた子どもの頃の想いを呼び起こしてくれますし、常に刺激を与えてくれる存在です。これからも、可能な限り乗り続けていきたいですね。

取材を終えて…

あの日あのとき、古くから付き合いのあるショップを訪ねていなかったら…。奥さまが資金援助してくれなかったら…。もしかしたら、神谷さんはナナサンカレラを手に入れることができなかったかもしれません。数年前と比べて少し沈静化しつつあるように見える「空冷ポルシェ911バブル」ですが、ナナサンカレラがマニア垂涎のモデルであることに変わりはなく、一昔前の相場に戻ったとはとてもいい難い状況です。憧れのクルマを手に入れるためには「諦めず、思い続けること」そして「●●●●●が欲しい!」と、周囲にアピールし続けることが大切なのかもしれません。

著者プロフィール

松村 透(スタジオ・マルチリンク代表)

輸入車の取扱説明書の制作を経て、2006年にベストモータリング/ホットバージョン公式サイトのリニューアルを担当し、Webメディアの面白さに目覚める。その後、大手飲食店ポータルサイトでコンテンツ企画を経験し、2013年にフリーランスとして独立。

現在はトヨタGAZOO愛車紹介の監修・取材・記事制作、ベストカー誌の取材等で年間100人を超えるオーナーインタビューを行う。また、輸入車専門の自動車メディア・カレントライフの編集長を務める。

愛車は2016年式フォルクスワーゲン ゴルフ トゥーランと、1970年式のドイツ車。妻と、平成最後の年に産まれた息子、動物病院から譲り受けた保護猫と平和に(?)暮らす日々。


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