
未来を創る企業 × 学生 #1
ホンダジェット技術者インタビュー(後編)「僕たちが技術を進化させている、そう思える仕事」
HACI 飛行試験エンジニア・荻原 凱さん
米国ホンダ エアクラフト カンパニー(以下、HACI)で飛行試験エンジニアとして活躍する荻原 凱さんに、学生がインタビューする取材企画の後編をお届けします。
今回は、荻原 凱さんのこれまでのキャリアや、学生へのメッセージをお聞きしました。
米国HACIに勤務する荻原 凱さんには、オンラインでの取材にご協力いただきました。
未来を創る企業 × 学生シリーズでは、企業の先進技術の舞台裏を前編で紹介し、そこに関わる技術者・研究者のキャリアストーリーや学生に向けたメッセージを後編でお届けします。
ホンダジェット技術者インタビュー(前編)はこちら
インタビュー前編:https://moov.ooo/special/newtonhub/article/01/
飛行試験エンジニアとして活躍するまでのストーリー

ーー荻原さんが飛行試験エンジニアの道を選んだきっかけや、これまでのキャリアストーリーを教えて下さい。
「小さい頃から飛行機やロケット、宇宙船が大好きで、将来はパイロットになりたいとか、宇宙に行きたいとか、漠然と思っていました。ただただ好きという気持ちが強く、大学では航空宇宙工学を学ぼうと決めていました。父親が旅客機の整備士だったので、その影響もあると思います。」
「高校生の頃に航空宇宙業界が発展しているアメリカに行きたいと考えるようになり、両親とも相談して目指すことにしました。進学先は航空宇宙工学学科のあるワシントン大学。卒業後は、革新的なイノベーションを起こしているスタンフォード大学大学院に惹かれ、進学しました。」
「大学院時代にHACIでのインターンを経験し、翌年の卒業後に入社しました。最初はフライトサイエンス部署で操縦安定性エンジニアとして勤務し、その時に風洞試験やシミュレーションモデルの開発を担当しています。ホンダジェット エシュロン(HondaJet Echelon)の尾翼の設計にも携わりました。」
「その後、ホンダジェット エリートⅡ(HondaJet Elite II)の開発に携わる中で、フライトサイエンス部署から打診され、2020年からは飛行試験エンジニアとして勤務しています。」
「パイロットライセンスを取得し、プロジェクトリーダーや飛行試験ディレクターなどを経験した現在、340時間以上の搭乗業務を通して、飛行試験だけでなくフライトサイエンスやデータ解析などさまざまな業務に関わっています。」
大学での学びや経験、そして今につながっていること

ーー大学や大学院で学んだことは、今の仕事にどのように活かされていると実感しますか?
「大学で学んだ知識は毎日のように仕事に活きています。ただ学問的な知識自体は、スタンフォード大学大学院でなければ得られないものではなく、航空宇宙工学を学べる多くの大学院でも大きな差はないと考えます。」
「僕が在学中に得た経験として大きかったのは、航空宇宙工学に人生をすべて捧げているかのように情熱を注ぐ人々と過ごした2年間でした。」
「特にスタンフォード大学大学院には”未来を作る”という強い使命感を持って取り組む熱心な教授や学生が多く、24時間続く試験が行われたり、オフィスアワーが24時間の教授がいたり、夜中の3時でも学内で学ぶ学生がいたりして、特別な環境でした。」
「ストレスも多くハードでしたが、スタンフォードでの経験が私のモチベーションとなり、今も大きな力になっています。”難しい問題でも必ず解決策はある”という信念や、技術を進化させる使命感が大学院時代に培われました。」
「日々仕事をする中で特に実感することは、技術は自然に進化するわけではないということ。飛行機だけでなく、スマホや自動車などでも時間が経てば勝手に技術や性能が進化しているように見えても、その裏では多くの技術者が日々試行錯誤を繰り返し、挑戦と失敗を重ねています。」
「今のホンダジェットに搭載されているASASシステム(※)やオートスロットル機能といった何年にも渡る挑戦の末に生まれた技術や、ホンダで働く大勢のエンジニアが実現させてきたバイクや自動車などの新しい技術も、エンジニアたちの努力と挑戦の結晶なのです。」
(※)ASAS(Advanced Steering Augmentation System)
特定の天候条件下での運用性能を高め、パイロットの負荷を軽減するほか、機体運用の安全性をさらに向上させるシステム(出典:ホンダ ニュースリリース)
https://global.honda/jp/news/2021/c210527.html
飛行試験エンジニアとしての「やりがい」

ーーお仕事の中で、やりがいを実感する瞬間はどんな時ですか?
「自分たちが関わった製品が実際にお客様に届き、評価される瞬間ですね。たとえば、開発した技術がFAA(連邦航空局)に認められて商品化され、パイロットから”操縦しやすい”とか”このアップグレードは素晴らしい”といったフィードバックをもらえた時、エンジニアとしての努力が報われたと実感します。」
「また、それは単に技術が進化しただけではなく、僕たちエンジニアが技術を進化させていると思えるので、やりがいを感じます。」
航空業界で活躍する、未来のエンジニアへ

ーー荻原さんのように、飛行機の設計や開発に関わるエンジニアとして将来活躍したい学生に向けて、アドバイスをください。
「まず、大学で学ぶ授業内容や基礎知識を理解することが大前提です。例えば、空力計算のミスがフライトテストの事故につながったこともあります。法的な規定・レギュレーションといった基礎知識は過去の事故をきっかけに作られているものも多くあります。なので、理論的な基礎知識や規定の理解に不足があると、仕事能力としてだけでなく安全性も欠く結果につながります。」
「また、エンジニアとして働くなら、”いかにして問題を解決するか”という思考も重要です。エンジニアが取り組む仕事は、大学で与えられるような答えが用意されているものではなく、まだ解決されていない課題ばかりです。ゴールにたどり着くには、”何が問題なのか”を正しく認識する力、そしてそれを小さなステップに分解し、1つずつ解決していく力が求められます。」
「チームプレーヤーであることも重要です。飛行機の開発は、多くの人々との連携によって成り立っています。飛行試験の1回のフライトだけでも、エンジニアだけでなく、データ解析者、パイロット、測定チーム、安全性を分析する人、整備士など、さまざまな分野の専門家との協力があって実現できるのです。」
専門分野を海外で学びたい学生へ

ーー荻原さんのように、専門分野を海外で学びたい学生に向けたアドバイスも教えて下さい。
「僕の場合、高校を卒業して渡ったアメリカには友達も知り合いも家族もいない状態でした。具体的な計画があったわけではなく、ただ”航空宇宙の本場に行きたい”という気持ちだけで挑戦した感じです。」
「アメリカで最初に直面したのは言葉の壁。僕の読み書きは現地の中学生以下のレベルでした。”これでは理系科目を学ぶ以前の問題だ”と感じ、まずは英語の基礎を固めるためにライティングセンターに通い詰め、教授に何度も質問を重ね、ひたすら勉強を重ねる日々でした。」
「その場その場で”今これが足りてないからこれをやろう”とか、”これを知らないからあの人に聞こう”といった目標を作って日々がむしゃらに一つひとつ学んできたという実感があります。」
「僕のアメリカで航空宇宙工学を学ぶ挑戦は、計画的で効率的なものでは決してなかったですが、一方で”どんな環境でもやっていける”、”なんとかなる”という自信になりました。僕は学生時代に挑戦して失敗したことは、失敗のうちに入らないと考えます。僕自身、がむしゃらになってやったのに出来なかったことは山ほどありますが、その後の自分の力になっています。」
夢に向かって挑戦する荻原さんのバイタリティを感じた・平 光貴

荻原さんを始め、ホンダ広報部の皆さんの協力を得て実現した今回のインタビューを通して、HACIのホンダジェット開発の現場の様子を知ることができました。
特に印象的だったのは、飛行試験を行う上で、どうやって安全に行うかを意識するのではなく、危険や不安を誰もが共有しやすい雰囲気や組織づくりをしているということ。
今自分が所属する大学の航空部で意識していることに近く、親近感を覚えました。また、荻原さんも私と同じ神奈川県で高校生活を過ごしていたことを知り、自分と似た境遇でありながら、自分の夢を叶えるために単身でアメリカに留学したそのバイタリティは何よりも尊敬に値すると感じました。

飛行試験エンジニア 荻原 凱(おぎはら がい)
1992年、神奈川県生まれ。
米国ワシントン大学で航空宇宙工学 学士号、スタンフォード大学大学院で航空宇宙工学 修士号を取得。修士課程在学中の2016年にHACIでインターンを経験後、2017年に同社入社 。現在は飛行試験エンジニアとしてホンダジェットの技術開発に携わる。 自家用操縦士免許 ・計器飛行証明を保持。趣味は小型機の操縦に加え、登山、ランニング、旅行など。

学生インタビュアー 平 光貴(たいら こうき)
2004年、神奈川県生まれ。
早稲田大学基幹理工学部応用数理学科2年。将来はパイロットを目指し、現在は大学の航空部でグライダー(上級滑空機)による150回以上の飛行を経験。小型船舶操縦士免許を持ち、趣味は車・グライダー・小型船を操縦すること。
取材協力
本田技研工業株式会社
https://www.honda.co.jp/
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