日本酒の種類分けは複雑?酵母による違いや味わいの変化を確認

nagiy
公開: 2019-07-01
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自宅でまったりと飲むお酒としてすすめられた、または居酒屋などでチャレンジしてみたら案外おいしかった。

こんな感じで日本酒のおいしさに気が付く方も多いのではないでしょうか?自分から積極的に興味を持つのと同じくらいに、お酒の選び方は人にすすめられて決めるなんて方も多いでしょう。

お酒に詳しい人からのおすすめは、意外な出会いをもたらしてくれたりもするので楽しいものでもありますね。ただ人からすすめられた時の問題点の一つが、一人で選ぶ際に何を基準にすればよいのかわからなくなる点ではないでしょうか。

今回は数あるお酒の中でも、ハマってしまえばどこまでも気になってしまう日本酒。その種類分けについて少し詳しく見ていきましょう。中でも日本酒造りに欠かせない「麹」による違いについて触れていきます。


日本酒の種類はどう分けられているの?

日本酒と稲穂

まずは日本酒の種類分けをする際、瓶やパックを見るだけで簡単にわかるところから見ていきましょう。特定名称や火入れなど、自身の好みの味わいを見つける際にも知っておきたい種類分けになります。

特定名称による分け方

自分で日本酒を購入しようと考えた際に、一番に目につく日本酒の種類訳が「特定名称」ではないでしょうか。「純米酒」「大吟醸」など、日本酒についてあまり興味がない方でも、これらの名前だけは知っていたりしますよね。

これら日本酒につけられている一種の名前のことを、総じて特定名称と呼びます。酒税法において原材料、製造方法によって分類されているので、日本酒の種類について知りたいと考えるのなら、基本中の基本の分け方ともいえるでしょう。

大きなくくりでは、お米とお水、米麹だけで作られた日本酒のことを純米酒と呼び、これに醸造アルコールが添加されたものを本醸造酒と呼びます。

よく誤解されている方がいますが、アルコールを別途添加しているからといって安いお酒を指すわけではありません。醸造酒でアルコールを添加する理由は、米麹へ影響を与えて酒の味わいを変化させるため。

酒蔵によっては門外不出の醸造アルコールもあるなど、美味しい日本酒造りには欠かせないものだといえますね。誤解して敬遠してしまうことが無いよう気を付けてみましょう。

火入れによる分け方

基本的に日本酒を作る際の工程には2回の火入れ作業があります。これは酵素を停止させてアルコール発酵を止める、熱処理による殺菌を目的としたもの。安定した品質の日本酒を見出し、流通しやすくさせるためには必須の工程だといえるでしょう。

しかし日本酒には、この火入れの工程を省いた事によって種類分けされているものもあるんです。それが生酒や生貯蔵酒としておいしくいただける日本酒。火入れの数やタイミングについて知っておくことで、よりフレッシュな日本酒を選びやすくなるでしょう。

日本酒造りの工程、火入れに関するものとしては「搾り」移行がポイントになってきます。もろみを含んだにごり酒の状態から透明な日本酒にするための搾りの後に、大きな樽で貯蔵し、後に瓶詰めをして製品として店舗に置かれます。

火入れのタイミングはこの搾りと貯蔵の前、そして貯蔵から瓶詰めにされる前の2回。

一度も火入れをされていない日本酒のことを「生酒」と呼び、貯蔵前の火入れがないものを「生貯蔵酒」。そして瓶詰前の火入れがないものを「生詰め酒」もしくは「ひやおろし」と呼ばれます。

火入れのタイミングを知ったうえで名前をよく見ると、どこの火入れが省略されたお酒なのかもわかるようですよね。生のまま貯蔵されていたから「生」貯蔵酒。市場に卸す前の火入れをしていないから「ひやおろし」と覚えておきましょう。

貯蔵の長さによる分け方

続いては日本酒の貯蔵期間による種類分けについて見ていきましょう。貯蔵期間の種類分けの中で一番身近なのが新酒でしょうか。他にも瓶詰めの後に熟成された古酒、樽の中で貯蔵された長期熟成酒の3種類があります。

ただ、これらの日本酒は定義が非常にあいまいな点も特徴。特に新酒は上記で紹介した生酒の状態を新酒と呼んでみるものもあれば。一番に収穫された新米で作られた日本酒、他にも出荷の時期によって新酒と呼ばれる場合もあるのです。

ただ、どれも味わいとしてはフルーティで濃い味わいの傾向が強いもの。あまり定義に拘らず、味わいの傾向によって覚えておくのもおすすめですよ。新酒は軽く触れたようにフレッシュさやお米のお酒とは思えないフルーティな甘さが特徴的。

そして古酒や長期貯蔵酒は、時間をかけて熟成させたからこその重たく濃厚な味わいです。

日本酒の味わいを決める酵母による違い

ではここからは、今回のメインテーマとも言える酵母による日本酒の違いについて見ていきましょう。それぞれの味わいの違いについて、感想も紹介していきます。

昨今の主流「速醸仕込み」

現在もっとも一般的な日本酒がこちらの速醸仕込み(そくじょうじこみ)。日本酒を作る際に使われる麹に人工的に乳酸菌を添加。雑多な他の菌が繁殖しないために、すっきりとした味わいの日本酒造りに重宝されている方法ですね。

酒母から速醸酛ができるまでの時間がおよそ2週間と早いことから、このような名前が付けられています。香り高さも特徴の一つであり、特に意識して日本酒を選ばない限りは、口にしたことが多いものでもありますね。

バランスの良い「生酛仕込み」

速醸仕込みが人工的に乳酸菌を添加するものと違い、生酛仕込み(きもとしこみ)は昔ながらの方法といえるでしょう。同じく乳酸菌を用い雑菌の繁殖を止めますが、生酛仕込みでは空気中に含まれる乳酸菌が自然に乳酸を作るまで待つ点が大きな特徴。

しかし待つといっても、この間には大変な力仕事の工程が入ります。ただ麹をそのまま放っておいたままでは乳酸菌は作られませんし、ヘタをすれば腐ってしまいますよね。だからこそ生酛仕込みでは日本酒の原料であるお米、お水、麹を混ぜたものを大きな櫂を使ってひたすらに混ぜ続けどろどろにしていきます。

時代劇など古いお酒造りの映像を見たことがある方なら、何となく想像がつくのではないでしょうか?この工程を山卸(やまおろし)と呼び、お酒造りが盛んな時期である厳寒期の深夜に行われていました。この時期に行われる理由には雑菌の繁殖を抑えるという意味もあります。

ちょっと文章で読むだけでも非常に大変な工程ですが、頑張った後にできる生酛造りの日本酒は非常に濃く、深い味わいでありながらすっきりとした飲み口を実現。手間がかかった分、バランスがよく美味しい日本酒を楽しむことができるでしょう。

玄人好み?「山廃仕込み」

最後に紹介する山廃仕込み(やまはいしこみ)とは、上記で紹介した生酛仕込みの際に行われる「山卸」の工程を省いたもの。山廃に使われている「廃」の文字は山卸を廃した物、という意味ですね。

では山卸以外でどのように仕込んでいくのでしょうか?ここで使われるのは「水麹」と呼ばれるもの。山廃仕込みでは乳酸菌を利用せず、麹を水につけておくことから抽出される酵素を用いてお酒造りを進めていきます。

乳酸菌を使わない日本酒となるので、味わいもまた大きく変わってくるところが特徴的な日本酒といえるでしょう。他の日本酒よりも酸味が強く、よりどっしりとした濃厚さと旨みを感じさせる玄人好みの日本酒です。

そもそも酵母、酒母とは

麹

麹の仕込みによる日本酒の違いについて触れてきました。しかし、そもそも酵母や酒母とは何ぞや?と感じる方も多いでしょう。日本酒造りに欠かせないものであることは知っていても。それぞれの定義を応えよ。なんて言われてしまえばちょっと困ってしまいますよね。

したがってここからは、日本酒を作るうえで基本とも言える酵母、酒母、麹そのものについてもう少し詳しく見ていきましょう。

酒母はアルコールの大本

そもそも酒母とは何なのか?ごく大雑把に言ってしまえば、お酒造りに必須となる酵母を大量に作ったものです。

上記で紹介してきた速醸仕込みや生酛仕込みなどで作られたものを酒母と呼びます。そもそも日本酒を作るにはアルコール変換を促す「酵母」が大量に必要になります。それなら最初に酵母をたくさん作っておけばいいじゃないか、という考え方から作られているのが酒母なのです。

ざっくり行ってしまえば名前が違うだけで、大量の酵母を最初に作っておく工程そのものを酒母と呼んでいる、という考え方もできるでしょう。

酵母は発酵を促す存在

日本酒はひどくシンプルな材料からできているお酒ですが、だからこそお酒造りの工程は一言では説明できないような複雑さもあるもの。上記の酒母と同じことを書いているのでは?なんて思ってしまいそうですが、酵母の働きは糖質をアルコールに変換する「発酵」の役目を持っています。

ちなみにこの発酵の際に生まれるのはアルコールだけではなく、炭酸ガスも含まれます。だからこそもろみ(酵母)が残った状態のにごり酒などは、微炭酸を感じられるものもありますよね。

また酵母が生み出す炭酸ガスには、メロンやリンゴに似た香り成分も含まれています。フレッシュな日本酒を表した際にフルーティな香りも楽しめる、なんて聞いたことはありませんか?この香りも酵母によってつくられているものなんですよ。

酵母にも種類がある

もともとは生酛仕込みで作られていたといえる日本酒。自然の乳酸菌を使っていたことから、どうしてもできる日本酒の味わいには酒蔵によって大きく違いがありました。同じ杜氏が同じ工程で作ったとしても、酒蔵を変えれば味わいが違うのが当たり前なんてことも。

これは酒蔵や使われていた桶に、その酒蔵特有の酵母が沁みついてしまっていたためではないかと考えられています。「家付き酵母」または「蔵癖」とも呼ばれ、これはこれで当時の日本では味わい深いものとして楽しまれてきたものです。

ただ、一定の品質を保つことが難しいという面は、商売の観点から見ればあまり歓迎されることではありませんよね。また酒造りが難しいままでは跡を継ぐ方がいなくなってしまう。このような問題も抱えてしまいます。

そこで様々な問題点を改善するために行われてきたのが、純粋培養された優良酵母の抽出です。明治時代に初めての抽出が実行(現・独立行政法人酒類総合研究所)され、現在では複数の優良酵母を使った酒造りが行われるようになりました。

代表的な酵母は以下の通り。

・きょうかい2号:月桂冠の新酒もろみから分離されたきょうかい酵母。初期に抽出された酵母の一つ。
・きょうかい7号:清酒造りにおいて現在もっとも使われているきょうかい酵母。香り高さが大きな特徴。
・きょうかい9号:7号と同じく現在の清酒造りにおいて一般的に使われているきょうかい酵母。もろみの熟成期間の短さが特徴。

もちろん現在でも家付き酵母(蔵付酵母)をメインに酒造り、または自社開発の酵母で酒造りをしているメーカーもあります。あまり意識することがない酵母ですが、
種類分けはもちろん味わいのヒントを得るためにも少し気にしてみてくださいね。

マニアック?搾りの種類も知っておこう

斜めから見た酒瓶

最後に紹介するのは日本酒の搾り方の種類。搾り方にも種類があるの?もういいよ!なんて気持ちにもなりそうですが、繊細に作られている日本酒は、その工程が一つ違っただけでも味わいが大きく変わってしまいます。

実際に目にすることはなくとも、知識として知っておくのもおすすめですよ。代表的なものから現在ではなかなか見ない搾り方まで紹介していきます。

時代を感じる槽搾り

「ふねしぼり」「ふなしぼり」と呼ばれる昔ながらの搾り方です。布袋にもろみを入れ、舟状の搾り機の中にいくつもセット。上から蓋、棒状のもので圧力をかけながら搾る方法ですね。

職人さんが力の入れ加減を調整できることから、ゆっくりと優しく搾れるので雑味のない柔らかな日本酒に仕上がります。

槽搾りはその名の通り、搾る道具が船に似ていることからこの名前が付けられました。道具への布袋のセット、圧力のかけ方など特殊な技能が必要になるからこそ、職人さんの力が試される搾り方ともいえるでしょう。

一般的な方法自動圧搾ろ過機

薮田産業株式会社がほかの会社に先駆けて送り出したことから、通称ヤブタ式とも言われる搾り方。蛇腹状の圧搾機の中にもろみを入れ、両側から機械の力で圧力をかけながら搾る方法ですね。

機械の力を借りているので簡単に大量のもろみを搾ることが可能。大量生産を考える上では欠かせない搾り方であり、現在では最も一般的な方法でもあります。

ただ力一杯に搾る方法なだけに、雑味が残りやすいところが難点。繊細な味わいを大切にするべき大吟醸などを搾る際には向いてない方法だといえるでしょう。

口に入ることはないかも?袋吊り

名前の通りに布袋に入れたもろみを吊るすことによって、自然に垂れてくるしずくを集める搾り方。他の呼ばれ方として「雫取り」なんて風流な呼ばれ方から、ちょっと怖い「首吊り」なんて呼ばれ方もあります。

袋吊りのメリットは何といっても重力以外の圧力、外からの力を受けないことから一切の雑味がない日本酒を搾れること。日本酒本来の味わいはもちろん、まさしく透き通った水のような日本酒を実感することができるでしょう。

デメリットは搾り終わるまでに非常に時間がかかる事。そして量が取れないことから基本的に流通しない点が挙げられますね。現在では地方国税局への鑑評会などに出品する際に採用される搾り方となっています。

稀に鑑評会後に残った分が市場に上がることもあるので、興味がある方はアンテナを張ってみてはいかがでしょうか。

まとめ

今回は日本酒の種類分けの中でも、ちょっと珍しいポイントから見てきました。麹や搾り方など、あまり今まで意識してこなかった方も多いのではないでしょうか?

もちろん、日本酒を選ぶ際には小難しいことを考えず、ただ美味しいから。この一点で選ぶのが一番だと感じます。ただ美味しい日本酒を選びたいからといって、片っ端から味見をしていくわけにもいきませんよね。

だからこそ、今回のような事前知識を持っておくことも大切なポイントだといえるでしょう。味わいのヒントや自身の好みの方向性を決めるためにも、是非参考にしてみてくださいね。


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